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「Aは残って勉強するん?」
「あっ、はい!家だと集中できないので」
もう話は終わったのか、北さんが私のノートをひょいと覗き込む。走り書きの字や間違いまくりの計算を見られるのが恥ずかしくて、私はさりげなく掌でノートを隠した。
「まあ分からなすぎて既に集中切れたんですけどね!」
「それはあかんな。分からへんのってこの問題?」
「えっ?あ、いや、こっちです。何回やっても答えが合わなくて……」
北さんはしばらく私が指差した問題をじっと見たあと、持ってきていたプリントの裏にさらさらとペンを走らせる。手元を少し盗み見てみると、字が綺麗で驚いた。この人は何から何まで美しい。
「……あ、いけた」
「もう!?」
私が15分以上時間をかけても分からなかった問題を、北さんはものの数分で解いてしまった。負けず嫌いなので結構悔しい。
北さんは隣の机を私の席にくっつけ、椅子に腰かけた。先ほどメモに使った紙と問題を交互に見る。そして何かに気付いたのか、ああ、と声を漏らした。
「こっちの問題解けたんやったらいけるで。俺も引っかかりそうになったんやけど、これを応用して−−」
北さんの説明は恐ろしいくらいに分かりやすかった。絶対に教師に向いている。きっと生徒に好かれるんだろうなあ−−と余計な妄想をしそうになったが、頑張って脳みそを真面目モードに切り替えた。北さんの教えてくれたことを反芻し、もう一度最初から計算し直す。数分間の奮闘の末、私はようやく正解を導き出すことができた。
「……あ!解けた!!解けました!!」
「おー、やれば出来るやん」
「北さんのおかげです!ありが−−」
私は北さんにお礼を言おうと口を開いて、そのまま固まった。
今まで集中していたため全く気づかなかったが、北さんと顔の距離が近い。それこそ、色素の薄い瞳の中に、自分の間抜けな顔を見つけてしまうくらいには。
不意に風が吹き、柔軟剤の優しい香りがふわりと鼻腔を掠めた。瞬間、なぜか心臓が大きく脈打つ。
「−−あれ?」
いつもとは少し違う感覚に私は首を傾げた。もちろん北さんを見ると毎回ドキドキしてしまうのだが、それとはなんだか別物のように感じる。言葉では言い表せない謎の違和感に戸惑った。
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作者名:豆腐ハンバーグ | 作成日時:2020年4月11日 0時