【HQ】ごくありふれた、よくある話【北信介】 (ページ14)

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中間テストがすぐそこまで迫った5月末。テスト前だからということで、今日から全ての部活が休みになった。この休みはテストが終わるまで続く。みんな家や図書館に行って勉強をする予定なのか、はたまたテスト勉強なんてする気がないのか、ほとんどの生徒はチャイムが鳴ると早々に教室から去っていった。いま教室にいるのは私と宮の2人だけである。
私は家だと集中できないため、このまま学校に残って勉強するつもりだ。吹奏楽部員は全教科60点以上を取らなければ、罰として地獄の筋トレが待っている。それはなんとしてでも回避したい。私は気合を入れてノートを開き、テスト勉強を開始した。

「あー、疲れた。北さんの写真５億枚欲しい……」

勉強を始めて30分、すでに集中力が切れてしまった私は机に突っ伏した。苦手科目から始めてしまったのが悪かったのかもしれない。頭を使うとカロリーを消費するため、お腹が減ってきて集中できなくなってしまった。

「ちゃんと勉強せえ」

「お前にだけは言われたくない」

ノートや教科書を開く様子もなく、隣で延々とスマホを弄っている宮を睨みつける。宮は「その顔ブスやな」と突然カメラのシャッターを切った。

「これ北さんに見せたろ～」

「は！？やめて、消せ」

ガタン、と大きな音を立てて椅子から立ち上がり、乱暴に宮のスマホを奪った－－つもりが、ひらりと躱される。

「おい！ちょっと！消して！」

「消したいんやったら自分で消し、ホレホレ」

「こっっっのクソ野郎ォ……！」

「口悪いな！」

スマホを奪おうとジャンプして手を伸ばすが、運動部の鍛え抜かれた瞬発力には敵わない。しかも宮と私の身長差は30cm以上あるため、全く届く気がしなかった。

「っも～、そろそろ、消し、あっ」

「は！？ちょっ」

着地する時に足がもつれてバランスを崩した。椅子が派手な音を立てて倒れる。私は重力に逆らえるはずもなく、思い切り宮の胸に突撃してしまった。

「っは～～ごめん、大丈夫？」

「大丈夫やあらへんわ！痛い！」

宮は机に片手をついて体重を支え、もう片方の手を私の腰に回して転ばないよう庇ってくれたようだ。恐るべし瞬発力、恐るべし筋肉。宮が運動部でよかったと心の底から思った。

「もっと周囲に気ぃ配れ、や……っ！？」

宮が息を飲んだ気配がした。不思議に思って顔を上げると、真っ赤な顔で口をぱくぱくさせている宮と目が合う。3秒ほど見つめあったあと、宮ははっと我に返り、光の速さで私を引き剥がした。