【HQ】ごくありふれた、よくある話【北信介】 (ページ13)

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「大丈夫、俺1セット目出てへんし」

「えっ、そうなんですか？」

北さんは小さく頷いた。話を聞くと、なんと今まで試合に出たことはなく、ユニフォームを貰ったのも3年生になってからだと言う。どうやら稲荷崎は主力が2年生らしく、まだメンタルが未熟な彼らが緩まないよう、要所で空気を締めるのが北さんの役割のようだ。

「なるほど……だからリードしてたのにあそこで北さんが入れられたんですね」

「せや。前に言ったやろ、俺はただの凌ぎ役やって」

「でも、北さんあんなに強烈なスパイク綺麗に上げてたし、絶対拾えない！ってくらい吹っ飛んだボールもめちゃくちゃ拾うし、本当にすごくて……北さんが今までものすごく努力してきたのが伝わってきて、私は今日更に北さんのファンになってしまいました！北さんは世界一かっこいいです！！」

北さんが呆けた顔で私を見る。この顔はなかなかレアじゃないだろうか。暫しの間その顔を見つめながら「どうしたんだろう、可愛いなあ」と考えていたが、先ほどの自分の言葉を思い出してはっとした。
もしかして、また余計なことを言ってしまったから、気分を害してしまったのではないだろうか。私はバレーに詳しいわけではないくせに、偉そうにプレーを褒めてしまった。
それに、きっと私には想像できないくらい、北さんは努力しているはずだ。それを全部知っているかのように語られれば不快になってしまうだろう。
考えれば考えるほど余計な言葉が多かった気がして、私は勢いよく頭を下げた。

「す、すみません！！何も知らないのに偉そうなことを－－」

「……ふふふっ」

顔を上げると、北さんが笑っていた。今まで見たことがない清々しい笑顔。
今度は私が呆けた顔になる番だった。

「よう見てくれとる人もおるもんやなあ」

「……怒ってないんですか？」

「何で怒る必要があるん？」

「私何も知らないのにベラベラ語っちゃったから、嫌な気持ちになったんじゃないかと……」

「褒められとるのに嫌な気持ちになるわけあらへんやろ」

北さんは心底不思議だという顔をしていたので、その言葉が本心であるということがわかった。強張っていた体から力が抜ける。嫌われていたら本気で泣く所だった。

「はー、よかったあ……。私これからも北さんのこと世界一応援してます！」

「……ありがとうな、A」

そう言った北さんの声があまりにも優しくて、心臓が「きゅん」とおかしな音を立てた。