【HQ】ごくありふれた、よくある話【北信介】 (ページ1)

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窓から差し込む日差しがノートを照らす。光が反射して字が書きにくいが、頬を撫でる暖かい風が心地良かったのと、校庭に咲き誇る桜をいつまでも見ていたくて、カーテンを閉める気にはならなかった。

４月。それは始まりの季節だ。特に今年の4月は、私－－Aにとって特別だった。
元々東京に住んでいたが、家庭の事情で兵庫県に引っ越すことになり、2年に上がるタイミングでこの稲荷崎高校に転入したのだ。当然知り合いは誰一人いない。環境も人間関係も全てが新しくて、少しだけ心臓がきゅっとなった。
しかし、幸運なことに私のコミュニケーション能力は高い。そのため想定通り初日で友達はできた。話してみるとみんな良い子ばかりで、これからの学校生活が楽しみである。

「Aちゃん、次体育館に移動やで～！一緒行こ！」

「あれ～？そうだっけ？行く行く～」

チャイムが鳴ると同時に、初日に仲良くなったクラスメイトに声をかけられた。引っ越してきて1ヶ月は経つが、未だに関西弁には慣れず、標準語で話してしまう。逆に目立ってしまうから早く関西弁になりたいものである。

「てか、今から何があるの？」

「えーっとね～……部活動紹介！」

彼女はポケットから取り出したくしゃくしゃの日程表を見ながら答えた。
そうか、部活動紹介か。道理でクラスに人が少ないはずだ。部活動に所属している人は、もう先に体育館に行っているのだろう。

「Aちゃんは何か部活入るん？」

「うーん……一応前の学校では吹奏楽部だったんだけど、ここ強豪なんでしょ？怖いから帰宅部でいいかな」

「確かに吹部は練習きついって聞くなあ。ちなみにうちは男バレも強豪」

「あー、バレー部強いってのはなんか聞いたことある」

そういえばうちのクラスにもバレー部の男の子がいた気がする。高身長でなかなかのイケメンで、確か双子だとか言っていた。

「男バレほんまかっこええんよ、前の方で見たいからはよ行こ！」

男子バレー部はファンが多いと聞いたが、例に漏れず彼女もそうだったらしい。私は引っ張られるまま体育館に足を踏み入れた。もう既に大勢の生徒が集まってきているように見えたが、1年生は遠慮しているのか後ろの方に固まっていたため、比較的見やすい位置に陣取ることができた。クラスメイトはご機嫌である。