元夫婦 −JN−【1】

＊　(JN) ページ29

俺の話を聞いてもAの顔には笑顔の欠片すら見られなくて…
何も覚えていないのだろうと確信した


「もしかして何も覚えてないの？」


A「私の中の一番古い記憶は病院のベッドの上で目覚めた瞬間の物なんです
その時私は自分が誰なのかさえ覚えていませんでした
5年が経過した今でもそれ以前の事は何も思い出せてない状態なんです」



やっぱり記憶を失くしていたんだ
だから俺たちの事を知らなかった…



A「だけど何故か病院の人たちは私をサランと呼びました
それ以来私はサランと名乗るようになって…
病院のスタッフさんの紹介で済州の修道院で暮らし始めたんです」


「サランもAの名前なんだよ？」


A「え？」


「病院の人たちはきっと歌姫サランだって気付いていたんだよ…」



A「歌姫サラン…？」



不思議そうに俺を見るA…
Aの目が俺をとらえているというだけで胸がいっぱいになる



「あの頃は皆が歌姫サランに憧れてた
俺も勿論同じ歌手として憧れてたし誰よりもAの事を愛していたんだよ？」



Aはただ頷きながら俺の話を聞いてて…
だけどその表情は徐々に緩んでいったんだ

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