スローモーション6・・kei.i・・

238 somebody ページ18

その子があなたの周りをウロウロするようになったのは、高校2年生になってすぐのこと。




私だって知ってた。
伊野尾くんが毎日屋上でお昼を過ごしていることくらい。

だけど私は、あの日彼に言われた『そっとしておいてほしい』っていう言葉を、ずっと守っていたのに。




ある日あの子は屋上への扉を簡単に開けて、彼との距離をどんどん縮めていった。





2人の距離がどんどん深まっていくのがわかって、苦しくて、でも、どうすることもできなくて。




.




6月。もうすぐ合唱コンクールとあなたの誕生日が近付いていたあの日。


移動教室の途中で久しぶりに伊野尾くんとすれ違った。
彼から少し離れたところをあの子が歩いて来るのも見えて。




階段の踊り場ですれ違った瞬間、その子の肩が思い切りぶつかって、私の眼鏡が落ちた。






「ごめんなさい！」




眼鏡を受け取って、その時に初めてちゃんと、間近で彼女のことを見た。





大きな黒目がちな瞳と、色白で華奢な身体と、さらりと揺れる黒髪と。



…私の持ってないものの全てを、彼女は持っていたんだ。





その瞬間に、胸にちりちりと嫉妬の炎が灯ってしまった。
彼女が背を向けた瞬間に、衝動的に私は、その背中を押した。





「きゃ…」





思った以上にバランスを崩した彼女が階段から落ちていくのが見えた瞬間、怖くなってその場から逃げた。






慧「A！」






その瞬間聞こえたのはあなたの声。




あぁそうなんだ。あの子、Aって言う名前なんだ。

その場から走り去りながらその時、そんなことを思っていた。

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