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それもこれも、刺繍の手習いを施してくれていた幾松のおかげ。
感謝しなきゃな。
そういえばお稽古事はどれもつまらないと思っていたけれど、刺繍の時間だけは好きだった。
昨日は寝ようと思った途端、ふと新しい着物の布の組み合わせをぴん!と思い付いて、わくわくして眠れなくなってしまって、
結局こっそり布団を抜け出して、ちまちまとやってしまったのだ。
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A「楽しくてつい眠れなくなっちゃったの。急ぎの仕事じゃなかったのに」
慧「そーなの?でも駄目だよ、そんな働き方を続けてちゃ。いつか体を壊しちゃう」
慧と一緒に暮らすようになってから、自分の体が自分だけのものじゃなくなった感じがする。例えば指先にちょっと切り傷を作ってしまったくらいでも、彼はまるで自分のことみたいに眉をひそめて丁寧に手当をしてくれるのだ。
大事にされているなぁって、いつも思う。
A「はぁい。気を付けまーす」
慧「今うるせぇやつだなぁって思ったでしょ?」
A「思ってないよ」
慧「嘘」
A「うーん…ちょっと思った」
慧「ほらぁ」
む、と唇を尖らせた彼に思わず吹き出す。つられたみたいで彼もまたくすくすと笑った。
慧「全然言うこと聞かないの、俺のお嫁さん」
A「何のこと?」
とぼけて見せたら、慧が笑いながら私の手を握った。
慧「帰ろっか」
A「うん。今日は何が食べたい?」
慧「そうだなぁ…」
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子ども達を見送り歩いてきた田んぼ道を、手を繋いで引き返す。夕陽の橙に照らされて、少し離れた場所にぽつんと建っている小さな平屋建てが、私たちの家だ。
私たちは、この海辺の小さな村に辿り着いてすぐに夫婦になった。
突然この地に現れた私たちを、特に詮索することもなく温かく受け入れてくれたこの村の人達には本当に感謝している。
近所のおばぁちゃんにだけはこの前、ちょっと嬉しそうに「駆け落ちでしょう?うちもそうだったから分かるのよ」なんてこっそり言われたけどね。
昔住んでいた屋敷とは比べものにならないくらい小さい家で、決して裕福とは言えない暮らし。
それでも、今まで感じたことがないくらい満ち足りて幸せな日々を送っていた。
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いのてりーなみよ(プロフ) - 初めまして!執筆お疲れ様でした。ちゃみさんの作品が大好きで、小学生の頃から読んでいます。今回のお話も曲の世界観とぴったりで最高でした!号泣しながら何度も読み返しました…!やっと自分の携帯を手に入れ、やっとコメントができました!本当にお疲れ様でした! (2020年12月31日 21時) (レス) id: 7e384a3a2f (このIDを非表示/違反報告)
* Rin*(プロフ) - 完結おめでとうございます!もうずっと涼介は…涼介はどうなったんだ…!?と気になっていたのでスピンオフ、めっちゃ嬉しいです!気長に待ってます^^これからも頑張ってください!応援してます (2020年12月31日 17時) (レス) id: 9f5e8f6a71 (このIDを非表示/違反報告)
ふくなな(プロフ) - 初めまして、こんばんは。完結お疲れさまでした。以前からちゃみさんの書く慧くんがどのお話も大好きで、今回のお話も!いつも温かい気持ちになります。ありがとうございます。 (2020年12月31日 0時) (レス) id: 4cd974fbc5 (このIDを非表示/違反報告)
みかん大好き(プロフ) - 完結おめでとうございます!そしてお疲れ様でした!この小説を読んでから歌を聞くと少し切ない気持ちになりました笑この作品大好きです!トキメキをありがとうございました、 (2020年12月30日 15時) (レス) id: f21f825d8b (このIDを非表示/違反報告)
* . ° いのくま。* .(プロフ) - 完結おめでとうございます…!!!喜びと終わっちゃう悲しみできゅんと切なくなったり…。でも山田さんのスピンオフ作品で気分がぐわっと上がりました!w「はな壱もんめ」大大大好きです!これからもずっと読み返したいです…。なによりちゃみさまお疲れ様でした!! (2020年12月30日 14時) (レス) id: 8f7fc3c7dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃみ | 作成日時:2020年9月18日 16時