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A「私もそろそろ帰らなくちゃ」
繋がれたままの手をぷらぷらさせて、私より少しだけ背の高い彼を見上げる。
慧「そっか…、あ、待って!」
着物の袖に手を突っ込んで、おもむろに取り出された小さな包み。
A「これなぁに?」
慧「あげる。さっき来る途中で見つけたんだ。これしかなかったから、Aにだけ」
手のひらに乗せられた小さな包みを開けると、甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。
A「野いちご!」
慧「ほら、」
目を輝かせた私の口に、小さな赤い実が放り込まれる。
A「ん…!酸っぱい…!」
慧「えぇ、そうだった?じゃぁこっち」
A「あ、これは甘い…おいしい!」
慧「あとは持って帰りな」
そう言って丁寧に包み直したそれを、私の手に持たせた。
慧「気を付けてね」
A「慧こそ」
慧「俺は平気。走ったらすぐだから!」
そう言って、みんなとは逆の方向…神社の奥の細い山道の方に駆けていく。山の奥にある小さな集落に、彼の家はあるらしい。
ふと、振り返った彼がにこりと笑って言った。
慧「またね」
去り際、慧が呟くその言葉。
それはいつも、微笑みの中に、どこか寂しそうな色を含んでいるように思えた。
A「うん。また明日ね」
私がそう返すといつも、安心したように手を振って、駆けていくのだった。
.
神社に背を向け、緋色の日を浴びながら階段を降りる。
手元には小さな白い包み。
いつも帰り際に彼はこうして、私だけに木の実や綺麗な野花なんかを持たせてくれるのだ。
明日は、慧に何かお礼を持ってきてあげようかな。
そうだ、お父様に買ってもらったあの本、
難しくて私にはつまらなかったけど、慧は好きかもしれない。
明日こっそり持ってきて、慧にあげよう。
きっと目をまんまるにして、喜んでくれる。
.
神社の階段の下に、迎えの女中が来ているのが見えて、手を振った。
私に気付いた女中は、それに応えるように笑いながら、軽く頭を下げた。
.
胸元に、落とさないように包みをしっかりと抱え、
まだ見ぬ明日の彼の笑顔を思い描きながら、足を弾ませ帰り道を急いだ。
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ばるとくJUMP(プロフ) - はじめまして!私はもともと、ミステリアスでファンタスティックな作品が好きなので、この作品は本当にストライクです!しかも、伊野尾ちゃんと山ちゃんというくみあわせが作品にマッチしていて、すぐにのめり込みました。続きがもう待ち遠しいです!!!!!!!!! (2020年1月28日 20時) (レス) id: a73addc012 (このIDを非表示/違反報告)
中島理沙(プロフ) - この作品、とっても素晴らしいです!!! これからも応援しています!!! あ!ちなみに同じく私もPARADEロス激しい状態です笑笑 (2020年1月27日 6時) (レス) id: 848933ac82 (このIDを非表示/違反報告)
伊野尾様Love.@七星 - 慧の正体…、いつ分かるのでしょうか…!!読んでてとてもドキドキします…!w (2020年1月18日 23時) (レス) id: e41447f8a9 (このIDを非表示/違反報告)
伊野尾様Love.@七星 - 初めまして!今作の『はな壱もんめ』!!私がPARADEのアルバムの中で一番好きな曲で!!すぐさま見てしまいました…ww。しかも主は我が推しのいの様!!楽しめる予感しかしませんw先、とてもとてもとても気になるので更新お願い致します! (2020年1月11日 8時) (レス) id: e41447f8a9 (このIDを非表示/違反報告)
この(プロフ) - 新作おめでとうございます!更新頻度が高くて凄く嬉しいです!ちゃみさんの作品の中で珍しいジャンルですごくどきどききゅんきゅんしながら読んでいます!これからどうなるのかすごく楽しみです!応援してます!! (2020年1月7日 18時) (レス) id: 5bc2eb359c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃみ | 作成日時:2019年12月26日 15時