#78 ページ32
アトリエを出て、もうすっかり暗くなってしまった中庭を歩く。
ポケットには先生にもらったプリント。さっきの話がまだ、頭の中をぐるぐると回っている。
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『留学期間は5ヶ月。その間は向こうの学生寮の空き部屋を貸してもらえることになってる。向こうで取った単位は、帰ってきてからウチの単位に換算できる』
『現地に日本語が話せるスタッフもいるから、生活もそんなに心配しなくて大丈夫。すごく良い経験になると思うんだけど、どうかな?』
『出発は来月。急なんだけどさ、まぁ少し考えてみて』
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姉妹校であるその大学は、世界的に見ても『名門校』と言われるようなところで、
何よりも油絵の本場であるその地で学ぶことができるっていうのは、
きっとこれを逃したら2度とできない経験だと思う…
でも、いくらスタッフさんがいてくれるとはいえ、たった1人での海外の生活なんてできるかな。
とても不安だし、自信がないや。
A「あれ…?」
ため息をつきながら歩いていたその時、静かな中庭に聴こえてきたその音に、私は懐かしさを覚えた。
この音は、慧…?
来た道を引き返し、音楽部の練習棟にそっと入っていく。
.
近付くにつれ、音もハッキリと聴こえてくるようになった。
この音はきっと、慧だ。
無意識に胸が高鳴る。
なんだろう。前の音とは少し違う気がする…
その時、その音から直感的に感じられたのは、強さ。
それは単純に音の大小という話ではなくて、
音から彼の意志の強さが伝わってくるような…
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A「…っ、」
いつもの練習室の前で足を止めた。
やっぱりそうだった、慧だ。
少し開いたドア越しに姿が見えた瞬間、
きゅん、と締め付けられるような気持ちが身体中を駆け抜けた。
慧、少し痩せたかな。忙しいのかな。
髪の毛伸びっぱなしだ。また白いパーカー着てる。
じわじわと視界がぼやけてくる。
そうか、私慧に会いたかったんだな。
最近、前ほど会わなくなったから、
そうすれば自然と想いも薄れていくんじゃないかって期待してたけど、
全然そんなことないや。
会わなくったって、好きは勝手に大きくなっていくんだ。
知らなかったよ…
.
声をかけようかな。やっぱり帰ろうかな。
迷いながらその場から動けずにいて、
でもやっぱり、もう少しこの場所にいたい。最後まで聴いていたい。
滲んだ目元を拭って、ドアの前に立ち続けた。
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とまと(プロフ) - 深夜に一気読みで号泣でした、、こんなステキな作品に出会えたこと、とても嬉しいです!、これからも応援してます、頑張ってください!! (2019年12月31日 2時) (レス) id: e7e27b9562 (このIDを非表示/違反報告)
Nana - いつもドキドキしながら読んでます!最近更新の頻度が高くて嬉しいです!すれ違いってせつないですね、、彼女さんもいい子みたいだし登場人物が皆いい人なので皆に幸せになってもらいたいです続きも楽しみに待ってます! (2019年11月17日 0時) (レス) id: 2ec27d7b3e (このIDを非表示/違反報告)
sayo(プロフ) - 切なくて切なくて、先が気になって仕方ありません。毎回、おもしろ度を最高につけたいのに既に投稿済みで無効になってしまうやるせなさ…ついにコメントまでしてしまいました。更新、楽しみにしています。 (2019年11月12日 19時) (レス) id: 8f2791b52a (このIDを非表示/違反報告)
まひろ(プロフ) - 100票目をいただきました!すぐ駆けつけられなくてごめん( ; ; )ちゃみちゃんの書く伊野尾くんは柔らかくて可愛くて大好きー!楽しみにしてます(*^▽^*) (2019年10月31日 20時) (レス) id: 135a6c956f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃみ | 作成日時:2019年10月26日 23時