ナイトクルージングLAST・・Kei ＊ Ryosuke・・

night 203 ページ3

A「ただいま…、」




誰もいないのはわかってるけど、なんとなく癖でそう言ってしまうのはちょっと虚しい。




くたくたに疲れた体を、ベッドに投げ出した。




…このベッドに慧がいたなんて、嘘みたい。








.







彼のことだから、またひょっこり現れるんじゃないかって、心の何処かに期待する気持ちもあった。




だけどあの時、
彼は私に今いる場所を告げてはくれなかったし、
新しい連絡先も教えてはくれなかった。



日を追うごとに悲しい予感は確信に変わっていく。







.







なんとなくつけたテレビから、特に見たくもないバラエティの騒々しい歓声が、やたらと耳に障った。






慧が出ていたCMは次々と打ち切りが決まり、レギュラーの仕事も「体調不良でお休み」というなんとも釈然としない理由で彼の不在は続き、


彼は私の前からも、芸能界からも、文字通り消えてしまった。









A「慧、今日ね、がんばったよ」








誰もいない、その空間に向かってなんとなく呟く。








いつもだったらきっと真っ先に慧にメッセージを打って、
それからあの部屋で彼の帰りを待って、
今日の出来事をとりとめもなく話し続ける私に彼は、きっと優しく相槌を打ってくれていただろうな。







…もう私は、あの部屋には2度と、行けなくなっちゃった。








.








起き上がって、写真立てに手を伸ばした。







A「ねぇママ、」


A「これで、いいんだよね…」








あの夜、幸せな温もりに包まれながら、

彼への想いとはまた別のところで、静かに固まっていった気持ちがあった。







それは、幼い頃に交わした、ママとの約束。









…私はまだ、自分の足で歩き出していないから。









〜♪









枕元のスマホが鳴った。

手を伸ばして画面に触れる。









『涼介 : 明日の夜、空いてる？』









A「明日…、」









.









気が付けばカレンダーは新しい年を示していて、彼に返事をする期限はもう、すぐそこまで来ていた。









長い夜はきっと、もうすぐ明ける。

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