ナイトクルージング3・・Kei ＊ Ryosuke・・

night 117 ページ38

涼「A、」


A「ん？」


ぼんやりとそんなことを考えながら楽屋を片付け始めた手を止めて振り返る。




涼「今週の金曜、空いてる？」



A「あ、…うん、空いてるよ」



涼「じゃ、そのまま空けといて、夜」


A「え…、」


涼「メシ食い行こ？」


久しぶりにふわ、と笑う涼介を見た。
条件反射みたいに、鼓動は速くなる。


A「うん、行く…！奢りね、」


涼「はいはい、奢りです」


照れ隠しでつい、可愛くないことを言ってしまったけれど、
今の私、嬉しさを全然隠せてない、そんな表情をしている気がする。





ドキドキ、鼓動が収まらないまま、片付けを続けていたら、突然手の甲に突然痛みが走った。







A「あつ…！」


途端、派手な音を立てて、メイクボックスの中身が少し床に散らばって。


涼「どした？」


涼介が慌ててやってきて、私の右手を掴む。


涼「わ、」


右手の甲。
ただてさえ日々の仕事で荒れていたところに、真っ赤な線が走っていた。


涼「ごめん、俺だわ。電源切り忘れた、」


さっきまで慧の髪を巻いていたコテが最大温度に設定されたまんま、机の上にあったのを、

私もよく確かめないで、思いっきり触れてしまった。


A「ん、大丈夫、大したことないよ」


涼「いやこれダメっしょ、冷やさなきゃ」


私の手を掴んだまま、涼介は楽屋にある冷蔵庫を開けて、


涼「良かった、まだあった、」


いつかの差し入れに一緒に入っていた保冷剤を取り出して、私の手の甲に当てた。






…涼介の手、久しぶり。
厚みがあって、温かくて、


ふと、自分の荒れ放題の手元が目に入って恥ずかしくなる。

今朝、もうちょっと念入りにハンドクリームを塗ってくるんだった。






涼「…Aの手ってさ、」


A「荒れてるでしょ。汚いよね、」


涼「ちげーよ、」


涼「すっごい頑張ってる手」


向かいに座って片方の手は、私の手に保冷剤を当てたまま、

涼介の手が私の、もう一方の手を握った。






A「……！」





なんだかもう、突然の出来事で、ドキドキする間もない。






涼「俺さ、…Aに聞きたいことがあるんだけど、」


手を握ったまま、彼はそう言って私の顔を覗き込んだ。


A「な…に…？」





冷静なふりをしようとしたってもう無理だ。
たぶん今、私の頰は真っ赤だし、
鼓動の音は握られた手を通じて、彼に届いていそうなくらいうるさい。





涼「あのさ、…Aは、」

night 118→←night 116

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す