検索窓
今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:147,615 hit

008:なかったことにしないで CM ページ9

家具の配置が換わっているとはいえ

この部屋の温度や 匂いはあの頃のままだ。

まるでAさんそのもののような

温かい空間が 僕は大好きだった。





「これがセレブ彼氏?」
「そういう言い方やめて」
「ふーん…青年実業家ってカンジ!」





写真の中のその男は

自信に満ち溢れ

思いのままに なんでも手に入れられる

そんな顔をしている。

…やっぱり僕とは 違う。





「僕に感謝してよ」
「は?」
「あの日、僕が日本へ行けなかったからこの人に出逢えたんだよね?」
「はいはい、…確かにそうね」
「僕のおかげだね」
「はいはい、…そうですね」
「…おめでとう」
「…」





僕じゃ ダメだった。

僕じゃ こんな幸せは与えられなかった。

僕じゃ…





「チャンミンは?彼女…いるの?」
「実は、僕あの日見つけたんだ」
「え…」
「携帯忘れて…たまたま乗った電車で行った街で…あの日見つけたんだ」
「…そうだったの」
「彼女は何か…キラキラしていた」
「…」
「それに…すごく素直な笑顔で」
「…」
「一目で恋に落ちた」
「…」
「だから…たかが別れ話するだけのためにAに会いに行く時間すらもったいないなーって」
「はい、コーヒー」





口から呆れるほどポンポン言葉が飛び出してくる。

Aは やっぱり

以前のように そんな僕を自然と受け入れるんだ。





「そんなに素敵な人だったんだ」
「そうだよ。それまで会ったどんな人より…素敵だった」





ねぇ、嫉妬してよ

どうして怒らないの?

それとも

もうどんな感情も湧き起らないほど

僕の存在は 薄れて消えかかっているの?






「そんな人に会えて良かったね、チャンミン」
「そうだね、一生に一度ぐらいだね、あんな運命的な出会い」






ねぇ、僕を忘れないでよ。





「Aさんって相変わらず僕をイライラさせるんだね」
「え?」
「昔からずっとそうだった。大人だからって平気なフリして」
「平気なフリ?」
「冷静装ってさ。それがどんなに人を傷つけるか知ってるの?」
「私が…アナタを傷つけたの?」
「僕はそんなAさんのそういう所が…大嫌いだったんだ」
「…」
「だから…あの日あの人に出逢った時…僕は」
「…」
「僕は……」
「…」
「この人なら…忘れさせてくれるんじゃないかって」
「…」
「Aさんを…好きになり過ぎた僕を…救ってくれるんじゃないかって」





ねぇ、僕の存在をなかったことにしないでよ。

009:今の今まで。→←007:ひとまず。



目次へ作品を作る
他の作品を探す

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
468人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作成日時:2017年3月5日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。