またいつか6 ページ47
スタジオを案内してもらいながら、スタジオにあったキーボードに触れた。
「わ…」
キーを押すと、ポーンと音が響いた。いつの間にか隣に彼がいる。
「ピアノ弾けるの?」
「昔、少しだけ習ってました。もう忘れましたけど」
まだ父も元気だった頃。その頃は家にも余裕があったので私と兄はピアノを習っていた。兄はなんでもそつなくこなすので上達したが、私はあまり器用ではなかった。
結局父が亡くなって、レッスン代がもったいないと上達しない私だけピアノは辞めさせられた。
(本当は、続けたかった)
懐かしくなって、簡単な練習曲を片手で弾いた。ぎこちない、子供のような稚拙な演奏。
スンヨンは何も言わず私の演奏を見ながら、1オクターブ上の鍵盤で伴奏をした。
下手くそだった私の演奏が、彼のおかげで立派な音楽になる。
片手なのにキーを間違えたり、リズムがずれても私に合わせてくれた。記憶にあるまでの音を奏でると、一つの曲が出来上がっていた。
「ヒョン、どうやったんですか!?」
「ピアノがそこそこ弾ける人はみんなできるよ」
和音が部屋に響く。心地よい、優しい音をしている。
忘れていた、忘れようとしていた気持ちが心の奥底から見え隠れしていた。
彼を好きだった。
辛い時にいつもそばにいてくれた。慰めてくれた。
必死に忘れようとしていた気持ちが蘇りそうになる。
「好きだなあ…」
気がつくと口に出ていた。慌てて両手で口を塞ぐ。
「何が?」
「ヒョンの音楽が」
「…ありがとう」
スンヨンがふふ、と笑う。あの頃も、今も。その気持ちは嘘偽りのない本当の気持ちだった。
彼の作る音楽が好きで。
つむぐ言葉が好きで。
チョ・スンヨンという人を好きになった。
忘れていた、あの頃の気持ちが鮮明に思い出される。
「だからヒョンの音楽に関われて嬉しいです」
無くしてしまった自分を、取り戻すきっかけになった彼にまた関われて嬉しかった。
いつか返そうと思っていたものを、少しでも返したい。
「良いステージになるといいですね」
「僕だけじゃ良いステージは作れないから。みんながいてこそだよ」
彼が笑う。目を細めて、優しげに。
優しい朝日が、私と彼を包んでいた。
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cham-chi(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます!今更な気もしたんですがそう言って頂けて本当に嬉しいです。励みになりました!!読んでいただいてありがとうございました!! (2020年9月16日 11時) (レス) id: 019756ae7d (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - X1の作品が少なくなり寂しい思いをしていまきたが、更新通知が来るたび、まだまだ私のように応援している人がいるんだなと思い嬉しくなりました。素敵な作品に出会えて嬉しかったです!これからも頑張ってください(^^) (2020年9月16日 2時) (レス) id: 70fff2cd4d (このIDを非表示/違反報告)
cham-chi(プロフ) - カナル式さん» カナル式様>コメントいただけて凄く嬉しいです!今更書くのはどうなんだろうと迷っていたんですがそう言っていただけて書いた甲斐がありました。下手くそな文章ですがもう少しお付き合いください。いつもありがとうございます。 (2020年9月11日 7時) (レス) id: 019756ae7d (このIDを非表示/違反報告)
カナル式(プロフ) - この作品すごく好きです! 今はX1の作品があまり無いのでこうやって更新して下さるのが嬉しいです!これからも続きを楽しみにしています(*^^*) (2020年9月11日 0時) (レス) id: 0d79bc4d43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:cham-chi | 作成日時:2020年9月5日 0時