出会い ページ3
(あれからいろいろあったな…)
もう慣れたはずなのに。
未だにスースーして落ち着かない、短くなった髪の襟足を触る。
バスの窓には相変わらず陰鬱そうな兄の顔が写っている。
これは私ではない。
短い黒髪も。
深く被ったキャップも。
体型を隠すかのようなダボっとしたパーカーも。
全部作り物。
私を私だと分からなくなり、兄だと思い込んだ母が私を抱きしめた時初めて母の目に私の姿が映ったのだ。
今まで私に期待も、認めてもくれなかったお母さん。
母が私に兄の代わりを望むならそうしようと思った。
これから兄として生きようと。
あの日事故で死んだのは私で、生き残ったのは兄である「私」。
それでいい。
こうやって私は、「私」をこの世界から消し去ることにしたのだ。
母は病院に入院となり、働き手を失った私の家は私が大黒柱となった。
私は兄のフリをして生きることにした。
もちろん事務所は辞めた。
会社の社長には何度も本当にこれでいいのかと止められた。
嬉しかった、本当は嫌ですと言いたかった。
でも、言えなかった。兄が亡くなり母が入院してしまった今、母の入院費用を払えるのは私しかいないのだ。
少しだけ伸びた髪の毛を指先で弄る。
事務所を辞めて、母を入院させて。身の回りの整理をした後、叔父の紹介で地方で働かせてもらった。
毎日忙しくしていれば何も考えなくてよかった。
母のいるソウルに戻りたかったけど、学歴も職歴もない私にはまともな仕事にはまずつけない。
親戚の中で唯一私が兄のフリをして生きることに理解をしてくれた叔父は顔が広く、私でも働ける仕事を紹介してくれた。
「ソウルに戻って来ないか？」
電話がかかってきたのはつい最近だ。
「お前、料理とか家事得意だよな？」
「得意ですけど…どうして？」
「ならいい。住み込みの仕事だけど料理とか掃除とかやってくれる人間を知り合いが探していて、お前を紹介しておいた」
聞けば聞くほど好条件だ。住むところももらえる。
給料も良い。
そして何よりソウルに住めれば母に会いに行けるー。
いつのまにか高速バスはソウルについており、バスを降りれば懐かしい匂いがした。
ボストンバッグを片手に地下鉄に乗り換える。
しばらくして電車を降り、渡されたメモの通り道を歩いていく。
長い坂道だ。
じわじわ汗がにじむ。
(なんだっけ…寮の清掃とか料理を作るんだっけ)
この時は思いもしなかったのだ。
これからアイドルとなる彼らと住むことになるだなんて。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
cham-chi(プロフ) - すずさん» コメントありがとうございます！今更な気もしたんですがそう言って頂けて本当に嬉しいです。励みになりました！！読んでいただいてありがとうございました！！ (2020年9月16日 11時) (
レス) id: 019756ae7d (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - X1の作品が少なくなり寂しい思いをしていまきたが、更新通知が来るたび、まだまだ私のように応援している人がいるんだなと思い嬉しくなりました。素敵な作品に出会えて嬉しかったです！これからも頑張ってください(^^) (2020年9月16日 2時) (レス) id: 70fff2cd4d (このIDを非表示/違反報告)
cham-chi(プロフ) - カナル式さん» カナル式様＞コメントいただけて凄く嬉しいです！今更書くのはどうなんだろうと迷っていたんですがそう言っていただけて書いた甲斐がありました。下手くそな文章ですがもう少しお付き合いください。いつもありがとうございます。 (2020年9月11日 7時) (レス) id: 019756ae7d (このIDを非表示/違反報告)
カナル式(プロフ) - この作品すごく好きです！ 今はX1の作品があまり無いのでこうやって更新して下さるのが嬉しいです！これからも続きを楽しみにしています(*^^*) (2020年9月11日 0時) (レス) id: 0d79bc4d43 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：cham-chi | 作成日時：2020年9月5日 0時
