あ ページ1
猫の命は９つ。
一つは生まれた瞬間に亡くしてしまった。
窒息死だった。猫の命はあと８つ。
野良猫として生き始めて、数週間。
私はご主人に出会った。
緑の布を深く被ったご主人は、私を藪から見つけ出して高く高く抱き上げた。ぐん、と上がる視界が新鮮で、少し怖くて、思わず後ろ脚で引っ掻いた。
「おまえヤンチャな奴やなぁ…！」
ご主人は怒ることなく、嬉しそうに言う。
巻かれたタオルが暖かかった。
そんな出会いから数年。
私は立派な成猫になり、ご主人の"お仕事"を手伝うようになった。
沢山のことを知った。
生きることも、死ぬことも、食べることも、寝ることも、
喜ぶことも、怒ることも、仲間のことも。
私は外に出るときに「ハーネス」というやつを付けられる。胸にぐるりと巻く、ポッケがたくさん付いた布だ。ご主人の着ている「服」とお揃いの色。
私は数年で沢山の単語を学んだ。
人の名前と地名ならある程度わかる。
私の仕事はご主人から渡された「荷物」をしっかりと「ぐるっぺん」や「ろぼろ」に届けることだ。
ぐるっぺんは甘い匂いとインクの匂いがする、男の人だ。この群れで一番偉い。
ろぼろはいつも人工物の匂いをさせている。あと、少し埃の匂いも。冬場は触られるとバチンとくる。いつも沢山のハコと睨めっこしている人だ。
ご主人の仕事にくっ付いて行き、「狩り」をする。
ご主人の合図に合わせて、上から獲物に飛び掛かれば良い。その間にご主人が止めを刺してくれる。
それから、ご主人が「荷物」を回収する。
小さなメモを私の胸ポケットに。
そして「荷物」を両脇腹のポケットに。
「さ、頼んだでA。…ロボロや。」
『なぅ。』
ご主人に言われた人物に、このポッケに入った「荷物」を届けるのが、私の仕事。
この仕事を終えた後の撫で撫でタイムが堪らないのだ。よく届けた！と褒めてもらえる。
ご主人が仕事から帰ってきた日の食事は豪華だ。
お肉もお魚も、スープもでる。
ご主人が沢山食べて、沢山笑っているのを見ると、なんだか私も尻尾が揺れる。
これが「幸せ」だと、私は知っている。
どの世界のどんな猫よりも、幸せを知っている。
ご主人が私の「幸せ」だ。
残りの８つの命をねじ曲げてでも、ご主人の側にいようと、今まで何度も誓った。
そして、今日もまたそっと誓う。
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すみれいん(プロフ) - 今回は絶対泣かないからな！と意気込んで読みました。結果我慢できずに泣きました。何回読んでも感情移入して泣いちゃうって凄いお話だと思います。ありがとうございます！ (2022年2月27日 17時) (
レス) @page14 id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀×macaroni - ガチで号泣しましたね。その状態で親たちの前に行くとめっちゃ心配されました。というか久しぶりに泣きました…神作品をありがとうございました (2021年10月24日 8時) (レス) id: 7df46c6c74 (このIDを非表示/違反報告)
結奈(プロフ) - 久しぶりにこんなに泣きました、、神作品をありがとう。 (2021年10月1日 17時) (レス) @page14 id: dfbb799ac9 (このIDを非表示/違反報告)
青空 - 泣いてしまいました、2、3回読みましたが全て号泣しました。頑張ってください！ (2020年8月21日 23時) (レス) id: c8e497a2f2 (このIDを非表示/違反報告)
彗(プロフ) - 泣いた (2020年8月14日 22時) (レス) id: b35ac9e42f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：チャムチャム
| 作成日時：2020年7月26日 21時
