◆8 恐怖 ページ8
声の主が誰か認識した瞬間、彼女の笑顔が脳裏にフラッシュバックする。
私の足はぱたりと動くのをやめてしまった。
動けない。
立ち止まる私に気付いた吉田が振り向く。
｢なにしてんのA？さっさと片付けねぇと｣
『………ミカ、』
｢は？｣
怪訝そうな顔をする彼に、震える指で指し示し、声を振り絞って伝える。
『……あれ、友達、』
あれがそこまで強くない悪魔だと、頭では分かっていた。
だが今日は違う。
大好きな友達が捕らえられている。
その恐怖に満ちた声は私の脚をすくませるのには充分すぎるほどだった。
心臓がどくん、どくん、と嫌な音を立てる。
指先や足がかたかたと震えて止まらない。
ミカが食べられてしまったら……
嫌な妄想が頭の中に思い浮かぶたび、胸が苦しくなり呼吸が浅くなっていく。
｢はぁ、｣
大きめの溜め息が聞こえて、ばっと顔を上げる。
ミカのことで頭がいっぱいになっていて、吉田を待たせていることを忘れかけていた。
明らかに不機嫌そうな顔で立っている吉田と目が合って、また心臓がどきりと音を立てる。
『ご、ごめ、』
｢やっぱお前今日変だよ、帰れば？｣
表情を変えることなくそう言い放つ吉田の冷ややかな視線が痛くて、目を逸らすことができない。
『え、でも、』
｢お前がそうしてる間に食べられちゃうんじゃね？あの子。
ここで立ち止まってても帰っても結果は一緒だろ｣
吉田のことは元々、”義理人情”という言葉が世界一似合わないやつだとは思っていた。
でもいざ冷酷な言葉を浴びせられると、嫌悪感で頭がおかしくなりそうだった。
友達いないから辛さ分かんないでしょ。
もっと人に優しくしないと一生彼女できないよ。
思いやりの心はどこに捨ててきたの？
いつもならそんな風に茶化して誤魔化しているが、こんな言葉たちは口から出てこようとはしない。
細々と、だがはっきりと、ミカの恐怖に満ちた声は依然として耳に響いている。
足はカタカタと震えていて、スカートの端をぎゅっと握りしめると、私は私の手もまた震えていることに気づく。
視線の先には、妙な威圧感を纏った吉田。
呆れているなら早くどこかへ行けばいいのに、吉田は絶えず私を見つめ続けている。
頭の中がぐるぐるになったその時、
突如として悪魔は消え去った、
いや、食べられた。
その向こうから歩いてくる男の人を見て全てを理解した。
私はまた、あのお兄さんに助けられてしまったのだった。
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麦踏(プロフ) - せつなさん» せつなさんありがとうございます！！とっても嬉しいです；； (2021年3月29日 4時) (
レス) id: b9c2e389f7 (このIDを非表示/違反報告)
せつな - とても面白いです、、!! (2021年3月25日 19時) (レス) id: 7d809df817 (このIDを非表示/違反報告)
麦踏(プロフ) - あるみくさん» あるみくさんありがとうございます！！めちゃくちゃ嬉しいです；；亀更新ですがこれからもお読みいただければ幸いです！！！ (2020年12月24日 1時) (レス) id: b9c2e389f7 (このIDを非表示/違反報告)
あるみく - え…好きです←唐突。え…おもろ…飛びそうなくらい好きです。頑張ってください (2020年12月23日 23時) (レス) id: 8de5b8d706 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：麦踏 | 作成日時：2020年12月18日 2時
