腹が減ってはなんとやら【雪赤】

8日目 ページ26

朝出社すると、デスクの上にはもう見慣れた紙袋が置いてあった。


「おはようございます。それ、ついさっき宮舘さんが置いて行かれましたよ。ほんとに何なんですか？」

「おはよ。…お弁当」


いけない、思わず答えてしまった。
西崎は大袈裟なくらい驚いた。


「えぇーっ！？あっ、付き合ってるんですか！？」

「…はっ？いや、なんでそうなるの。ただ私の食生活気にして作ってくれてるだけだよ」

「そうなんですか？でも普通、同期だからってお弁当なんて作りますかねぇ…私だったら遠野に作ったりしないなぁ」

「おい、聞こえてんだよ西崎」


西崎の後ろのデスクで仕事してた遠野が反応した。
「やば」と肩を竦めてそそくさとパソコンに向き直る西崎。
微笑ましいなこいつら、と呆れつつもさっきの言葉が頭から離れない。

側から見たら、この関係って付き合ってる内に入るってことなんだろうか。
確かに最初は私も「なんで？」と疑問に思ったけど、宮舘はただのお人好しという結論に達した。

彼女はいなかった訳だけれど、だからといって私の中で考えが変わることはなかった。

でも、外食に誘われたのは？
あの時はこっちが勝手にちょっとだけ浮かれてしまい反省して終わったけど、じゃあ宮舘はどういうつもりだったのだろう。

お弁当とお店で食べること、食事を共にしてるのは一緒でも、少し意味合いが変わってくる気がしなくもなく。
それに、今度は夜まで誘われた。

宮舘は見るからにスマートでモテてきただろうから、私が勝手に振り回されてるのだとばかり思っていたけれど。
もし、もし仮に宮舘がわざとあんなことやそんな台詞を言っていたのだとしたら？

…もしかする？

いや、ない。ないないない。
自惚れんな私。
長いこと恋愛から遠のいたせいで変に意識しちゃって恥ずかしい。

宮舘が私を好きなわけないじゃん。
私の方が好きならまだしも…


「…………あれ？」


なんで妙にしっくりきてんだ？
違うよね？

突然気づいてしまった自分の気持ちに頭がパニックになる。
どこが？なんで？えっ？えっ？

だけど考えても考えても分からなくなって、仕事も集中出来なくて、結局その日のお昼は13時を30分も超えてしまった。

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