春、君想ふ。-ut ページ34
この春私は、高校を卒業した。
そして、恋する気持ちからも卒業した。
「鬱先生、好きです。」
「うん。」
「世界で一番好きです。」
「…うん、ありがとう。」
あなたが教壇に立つ姿を見ながら、何度心の中で告白しただろう。
これが最後。最初で最後。
先生、告白させてくれてありがとう。
素敵な恋をさせてくれてありがとう。
ちゃんと恋を終わらせてくれてありがとう。
たくさんのありがとうを込めて、私は精一杯笑ってみせた。
「大学で絶対に鬱先生なんかよりいい男、捕まえてみせるね。」
「…なんかって、お前なぁ。」
呆れたように笑うそんな顔も好きだったの。
「きっとAなら、大丈夫やで。」
ああ、そんな風に優しく頭を撫でないで。
そんなの、反則だ。
涙が溢れそうになるのを、グッと堪えて笑う。
先生には私の泣いた顔じゃなくて、笑顔を覚えていて欲しいから。
「じゃあ、先生。またね。」
「おう、たまには顔見せに来てな。」
「…わか、った。」
絶対来ない。来れるわけない。
大好きな先生との思い出が詰まったこの学校にまた足を踏み入れるなんて、私にはしばらくできそうにない。
「鬱先生、ありがとうございました。」
バッと勢いよく頭を下げた勢いで、涙が一粒零れ落ちた。
「……立派な大学生になれよ。」
その言葉を聞くが早いか、私は背を向けて歩き出した。
さようなら、私の恋。
ーーーーー
それからの日々は本当に退屈で。
卒業後にあったクラス会は、先生と顔を合わせるのが嫌で欠席した。
そして、気付けばあっという間に4月になってしまっていた。
私が先生に振られてから約1ヶ月。
なんて、そんなことを思うくらいには見事なまでにあの恋を引きずっている。
だってしょうがない。
高校生活3年間を捧げた恋だったんだから。
そんなことを考えていたその時、急に携帯が震えた。
画面に表示されたのは見たことのない番号。
いつまでも鳴り止まないから、恐る恐る電話に出た。
「もしもし…？」
「Aか？」
その一言だけですぐに分かった。
「鬱先生？」
「急にすまんな。」
久しぶりに聞いた大好きな人の声。
それだけでちょっと泣きそうになってしまった。
「なんですか、急に。」
努めて『あなたのことはもう何とも思ってないですよ』感を出そうとする私に対して先生が口にした、
「今Aんちの前におるんやけど。」
なんて言葉は理解に苦しむものだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 211人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
でふぉ - すごく好きです。好きな作者さんばかりで、もっと早く読めばよかったと悔やんでおります。皆さん口調に違和感がなくて、入り込みやすくて好きです。ドキドキしたり、涙腺が少し潤んだりして、とても面白かったです。ありがとうございます。長文失礼しました。 (2019年8月22日 17時) (
レス) id: edb0d1df06 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
