愛故のマッドネスシザー。【usss】 (ページ3)

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もしもの時のためにと着せられた防弾チョッキは重たくて、歩くのが少ししんどかった。

黄色いテープの内側に入り、警察官の制服を着た大人に囲まれながら敷地内へと進む。何台も留まったパトカーと、その周辺で待機している警察官の方達に会釈しながら、私は孤児院の建物から一定の距離を保った場所で立ち止まった。

ここから、拡声器を使って彼らへの説得を試みるのだそう。その準備をする為に慌ただしく動く警察の人達を眺めながらも、私は未だにこの現実を受け止められずにいた。

私がこんな重要な役割をする日が来るだなんて、思いもしなかった。黄色いテープの外側からは私の里親である夫婦二人が心配そうにこちらを見つめている。だけど、それすらも現実味がないもののように思えた。

仕事を無理やり休んできてくれた二人には申し訳ないけど、これを現実だと受け入れることができるほど私は大人びていないのだ。私の中の時計は孤児院にいた頃から止まったまま。四人の幼馴染み(家族)から引き剥がされたあの日から、ずっと。

不安がどうにも覆いきれなくてまた視線を下に向けたその時、不意に現場がシーンと静まった。慌ただしく準備を進めていた大人たちは動きを止めて、揃ってただ一点だけを見つめている。

私も釣られるようにして視線をその先に向けると、孤児院の玄関前に青年がいることに気づいた。片手に刃物を持っているものの制服を着た金髪の男子だった。

「おい、勝手なことすんな。騒がしいと思ったら……俺らを刺激すんなっつったろ」

驚く程冷たい声だった。だけどあれは、間違いなく私の幼馴染みだった。すっかり大きくなってしまったけれど、昔の面影があるもの。殆ど無意識のうちに私は走り出していた。

後ろで「Aさん？！」と突然走り出した私に驚いているであろう声が聞こえたが、それもどうでもよかった。動いていた体は、後ろから伸ばされた大人たちの手を振り切って真っ直ぐ彼の元へ飛び込んでいく。

「せ、センラく」

「うわ、なんやこれ」

そこで私が久しぶりに再開したのは、すっかりと変わってしまった幼馴染みだった。私のことを『これ』と言って形容した彼は、冷めきった顔で私を見下ろしていた。

怖い……間違いなくセンラくんなのに、センラくんじゃないみたいだ。

その顔には幼かった頃の彼の面影はあるのに、疲れきっているのか顔色が悪く、目の下には濃い隈が刻まれていて、目付きは優しさが欠片も無くなっていた。

こわ、い。

後先考えない自分に後悔したが、もう遅くて。気づけば腕を引かれて孤児院の中へと押し込まれていた。