1.変わり果てた。 ページ1
.
「……立てこもり事件？私が育った孤児院で、ですか？」
私が言葉を繰り返すようにしてそう言うと、目の前に座った数人の大人の中で一際難しい顔をしている中年の女性が口を開いた。
「そう、高校生四人が凶器を持ったまま施設内に立てこもっているの。職員たちを人質にしてね」
四人の、高校生。
その言葉を聞いて咄嗟に私の脳裏に浮かんだのは、私が里親と暮らすようになるまで孤児院で一緒に暮らしていた四人の男の子の存在だった。
いや、まさか。彼らがそんな事するはずない。
いくら自分が幼少期を過ごしたあの孤児院で起こった立てこもり事件の犯人が四人の高校生であったとしても、そんな事あるはずない。一瞬でも幼馴染みである四人を犯人だと想像してしまった自分を嫌悪した。
彼らとはもう何年も離れて暮らしているけれど、物心着いてから孤児院を出るまでの数年間を共に過ごしてきたのだ。そんな私だからこそ心優しい彼らのことを誰よりも分かっている。
そんな彼らを疑ってしまうなんて……と自分を恥ずかしく思っていると、先程喋った中年の女性とは違う、高齢の男性が不意に口を開いた。
「今日、Aさんを警視庁にまでお呼びしたのには明確な理由があります」
「は、はぁ……」
「主犯である高校生四人の説得をして頂きたいのです」
「……はい？」
思わず間抜けな声を出していた。犯人の説得って、どういう事？どうして私なの？
ふつふつと湧き上がる疑問は留まることを知らず、戸惑った私は安定していない濁った言葉だけを零していく。そもそもの話、どうして私は突然警察庁のような場所に呼ばれたのか、という疑問すら解消できずにいるのに、どう納得しろと言うんだ。
混乱しない訳がない。どこにでもいる平凡な高校生である私が、大人たちに囲まれてこんな風に「貴方にしか頼めないんです」「お願いします」と頭を下げられているこの状況が、そもそも理解できない。
直々に警察庁の上官と名乗る人が数人、菓子折りを持って家にまで来られた時点で何かあるんだろうとは思っていたけれど、まさかこんな事になるなんて。
「詳しくお話しましょう。その前に……まず、こちらの資料を見て頂きたい」
そう言って手渡されたのは、朱印で極秘資料と押印された紙束だった。怪訝に思いながらもペラペラとページを捲っていくと、そこに見覚えのある四人の青年の顔を見つける。
気づけば、口から「な、んで……」という自分の戸惑った声が零れていた。
その書類で犯人として書かれていた四人の高校生は、どう見ても私の幼馴染みである彼らだったのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 251人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白雨(プロフ) - カエデさん» ありがとうございます〜！私の言葉で少しでも勇気を与える事ができていたら嬉しいです。カエデさんの人生がいいものとなりますように、陰ながら祈らせていただきます🍀 コメントありがとうございました◎ (4月22日 20時) (
レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
カエデ(プロフ) - 完結おめでとうございます！！私もなにかと周りの大人に色々と狂わされた10代だったので凄いぐっときました。今はまだ人生立て直しを模索中ですが、白雨さんのあとがきで勇気をもらえました！ありがとうございます！！本当にめちゃめちゃ面白かったです！！ (4月21日 23時) (レス) @page50 id: fc5654a0ec (このIDを非表示/違反報告)
白雨(プロフ) - こゆきさん» コメントありがとうございます◎ 来月くらいには完結すると思いますので是非最後までお付き合い下さいませ〜！ (1月9日 23時) (レス) @page17 id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - めっちゃ面白い！続きがすごく気になる、、、 (1月9日 14時) (レス) @page17 id: fe749953cc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白雨 | 作者ホームページ：愛故のメリーバッドエンド。
作成日時：2023年12月14日 20時
