◇ 書庫 ページ4
＊
「…………無いなぁ」
壁代わりの本棚にはぎっしりと分厚い本たちが礼儀正しく並べられている。薄暗い雰囲気の中で柘榴の瞳を凝らすが、目当ての本は見つかっていないという事実は彼女の言葉から読み取れる。
昭和レトロ、アンティーク、瀟洒、これらの言葉を並べても申し分ない世界が広がっている。
ここはかもめ学園の図書室ではない。かといって園外の図書館でもない。
生気と死気の両方を感じさせる白い肌足の近くには、どこまでも浅い水たまりが広がっている。
16時の書庫内を、Aは彷徨い続ける。
と言っても、ここを訪れてからまだ数十分しか経っていないのだが。
「……私のも寧々ちゃんのもあったけど、花子くんの本は見つからない……。やっぱり無いのかな……」
しゃがみ、背伸びをして、時には長椅子を使って彼女はこの書庫にあると推測する『花子くん』にまつわる本を探し尽くした。
けれどそれらしきものはひとつとして見つかっていない。
こうなったら自分の本を手に取ってそこから情報をあぶり出してしまおうか。未来のことなら何か手掛かりがあるのではないだろうか。
このまま途方に暮れるくらいなら、そこまでした方が有意義な時間を作り出せるかもしれないとAは考える。
「危ねぇ！」
「……っ！？」
偶然見つけた自分の本を棚から下ろそうとした、その時だった。突如、聞き覚えのある声が脳内に流れ込んでくる。明朗で活気のある声色。紛れもない、幼馴染の声だ。
何故彼がここにいる？ もしかして寧々と一緒にこの書庫にやってきた？ ただ入れ違っただけ？ ほんの一秒二秒の間にも様々な考えが巡り巡る。
とにかく、空耳でなければ光は悲鳴に準ずる声を荒らげていたはずだ。花子くんとの一件で杖の力も封じられた彼に、今は為す術などない。
助けに行かないと。そう思ったAの目前には瞬時、鴉色の布が広がった。
「やっほーA！」
「は、花子くん……？」
学ラン姿の普段の彼は学生のようだが、マントを羽織った今の姿はさながら軍人だ。
急に目の前に現れたがAはもう慣れてしまったのか、特に変に反応するでもなくただ一言を放った。
「聞こえた？ さっきの声」
「Aって、好戦的だよねぇ。流石は九条家の人間だ」
琥珀石と柘榴石が交わる中でも、幼馴染の切羽詰まった声は彼女に届いていた。
「花子の野郎ぉぉ！」
「呼んだ？」
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