恋に名前を (ページ4)

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『あっ、これ檜山に渡しといて』
『さっき渡しそびれちゃってさ〜』
『じゃ、頼むわ』

こういう面倒な役は避けたいタイプなのに、新学期の今日に限って頼まれてしまうのだから、ツイてない。

でも、檜山くんって
さっきモモが言ってたのが確かなら、
私を呼びに来てくれたあの学級委員の子か…

透き通った笑顔が、すごく素敵なあの子。
檜山くんって言うんだ。

なんだかそんな事を考えていると、
彼のことをもっと知りたいと思うようになった。
らしくない、自分。

「檜山くん、これ」
「先生がさっき渡しそびれた書類だって」
檜『あ〜ごめんね、わざわざ』
　『はしもっちゃんさ、Aさんに押しつけないで自分で持ってきてくれたらいいのにね』
「でも、教室戻るついでだったから大丈夫」

優しく話しかけてくれる彼の笑顔が暖かくて、気づけば私も笑顔になっていたと思う。うまく笑えてたかな、顔見知りしがちな私の緊張が表情に出ていませんように。

『待って』
『これどっちがいい？』

檜山くんの手のひらにはぶどう味といちご味、2種類のアメ。

「いや、いいよ！だいじょうぶ」
『これさっきはしもっちゃんにもらったの』
『学級委員の仕事のご褒美に、だってさ笑』
『Aさんも書類届けで仕事手伝ってくれたからさ』
『Aさんにも、ご褒美』

「…じゃあ、こっちで。ありがとう」

仕事と呼べるほど私は手伝っていないのに、ご褒美なんてと思ったけれど、あの笑顔で言われたら断ることなんてできなくて。彼のあの笑顔が私の何重にも重なってしまった対人関係の壁を壊していくような気がした。ただ純粋に関わりやすい人だなと思った。みんなから好かれるタイプ、だから私とは似ても似つかない違う世界の人だとも思った。

黒『あっずる〜オレにもちょーだいよ〜光成！！』
檜『お前にはやんないよ』
　『これは仕事のご褒美だから、何もやってないお前にはやんない』
　『ね、Aさん』
「あ、うん笑」
黒『何なんだよ〜お前ら2人とも〜』

何処からか突然黒田がやってきて私たちに絡み始めた。こういう時の黒田はめんどくさい。”仕事のご褒美”に隠されたほんの少しのふたりの秘密に心が揺らいで少し顔が赤くなる感覚がしたけど、それは私だけの秘密にしておこう。同じクラスだとは言っても、どうせもう檜山くんともあまり関わることはないだろうし、こんな気持ちは私だけの秘密にして、いつか忘れてしまえばいい。
一時の迷いに過ぎないんだから。