《完結》彼のスーツを脱がす時９【NINO】 (ページ17)

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257.９５７６kmの卒業式←11/1 ページ17

二宮さんがお店を出ると静寂に包まれる店内

スマホを鞄から出す

イギリスは深夜

オーナーはまだ仕事をしているだろうか

迷う指先がやっとの思いに通話をタップする

何度かなるコール

スーツを仕立てている最中ならまずオーナーは電話には出ない

だけど

出なければいいとすら思った呼び出し音が切れ

大野「……………はい」

聞こえたその声に心臓が痛いくらいに苦しい

何て言っていいのか

何から言えばいいのか

聞こえた変わらないオーナーの声

言葉のかわりに溢れる涙

大野「A…………泣いてんのか？」
　

オーナーの

　
「いえ……………………泣いて…ませんよ」

　
いつもと変わらない優しい声と

大野「下手くそ」(笑)

憎まれ口と一緒に聞こえる温かい笑い声

「下手って……っ…何ですか」(笑)

笑ってるのか泣いているのか自分の感情が何処にあるのかわからないのは

大野「……………ごめんな」

　

オーナーの全ての優しさに胸がいっぱいだから

「何が…ですか」

大野「二宮さんに聞いたんだろ？」

「…はい」

大野「何もかもだよ……………言えなかった」

オーナー

私がオーナーだとしても言えなかったと思う
　

寧ろオーナーは巻き込まれただけ…

大野「言い訳に聞こえるかもしれないけど」

なのに…

大野「何の柵もない中でお前にはお前が目指すテーラーになって欲しかったんだ」

「オーナー………ごめんなさい」

　
大野「何でAが謝るんだよ」(笑)

「だって」

大野「馬鹿だな」(笑)

ずっと

大野「ただAの側に居たかった…俺の我儘だって…思え」

ずっと

変わらずオーナーの背中を近くで見ていられるって甘えていた

大野「後にも先にも側に置いておきたいって思う"テーラー"はAだけだから」

でも

「っ……………オーナー………？」

大野「ん？」

卒業しなきゃって…

「ありがとうございます」

大野「ああ」

一言だけ答えてくれたその声は全てを受けとめるような優しい声だった

大野「次会うときはお前の手をバージンロードで引くとかどんだけだよ」(笑)

「はっ！？急に何をっ」

大野「するんだろ？……………二宮さんと結婚」

「はい」

大野「お前の母ちゃんに手引いてもらうわけいかないじゃん」(笑)

「なっ、何言ってるんですか」

大野「大事な…"肉親"だろお前も俺も」

「はい」

大野「それはかわらない…ずっとだ」