彼のスーツを脱がす時 3 【NINO】 (ページ3)

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62.ありがとう←5/2 ページ3

大野「おはよ」

いつもと同じ朝

「おはようございます」

だけどいつもとは違う朝

大野「…あのさ、A」

お店に出てきたオーナーはいつもの眠そうな顔とはちがって何か言いたげな瞳に私をじっと見ると

「はい」

大野「ん～…そのね…」

襟足の髪をくしゃくしゃっと掻きながら視線は宙をただよう

「どうしたんですか、オーナー」(笑)

小さな咳払いに出た言葉に

大野「二宮さんとは…………？」

簡単に心臓が跳ねた

「…えっと、その…はい」
　
互いに続かない言葉に視線で訴える

ほっとしたようにふわっと笑うオーナーに通じたんだと直ぐにわかった

大野「そっか、よかった」

「色々とご心配かけてしまってすみません」

大野「いいよ、それくらいの心配しなきゃじいちゃんにたたられるから」(笑)

時折何故かお祖父様の名前を出していうオーナー

オーナーの従業員の事にそこまで親身なるのは先代の教えなんだなって思う

「オーナー」

二宮さんに聞いた話

スーツとネクタイを彼に渡してくれなかったらきっと昨日の幸せは私にはなかったわけで

オーナーには感謝してもしきれないけど

こういうときどうやって感謝を表すのが正しいのか私にはわからない

大野「腹へった～」

「朝ご飯できてますよ」

大野「Aも食べるだろ」

「はい」

キッチンに行くと足を止めたオーナー

大野「俺の好きなもんばっかだ！」

少年のように無邪気に瞳を輝かせると食卓につき手を綺麗に合わせるオーナー

大野「いただきます」

こんな事でしか"ありがとう"を伝えられないけど

大野「うめぇっ、Aも早く食えよ」

美味しそうにごはんをほうばって食べてくれるオーナーに勝手だけど正解かなっと思った

「はい、いただきます」(笑)

大野「今日、二宮さんくるの？」

オープンして直ぐに作業場からお店に出てきたオーナー

「実は最終チェックも終わってるのであとは精算だけなんですけど」

大野「そっか」

「何かありますか？」

大野「いや、お邪魔だったら斗真とこに行ってこようかなって」

斗真とは老舗の生地問屋の息子さんで

オーナーとも歳が近いのもあり仕事以外でも食事やお酒を飲みに行く仲

「おっ、お邪魔って仕事中です」

大野「そ？」(笑)

「変な気回さないでください」

大野「Aは真面目だね～」(笑)

ニヤニヤ笑うオーナーに嫌でも顔が赤くなる

「オーナー！」

大野「はいはい(笑)でもちょうどいいから午後に少し見てくる」