彼のスーツを脱がす時 2 【NINO】 (ページ10)

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午前中に入ってたクライアントとの打ち合わせが終わり
自社ビルに戻る頃にはお昼休みだった

数年ぶりに着たスーツは今朝翔ちゃんにクリーニングのタグがついてると言われるくらいで

社長室に戻るまでにスレ違う社員達が驚きの目で俺を見る

部屋に入ると堅苦しいスーツのジャケットを脱ぐとソファーにそれを適当に置いた

無意識にネクタイを緩める指が

視線に入る深紅のネクタイに止まる

想うのは…Aちゃん

貴女のことだけだ

今週末

完成するスーツ

受け取りという理由をつけて貴女の顔を見れる

顔が見れるだけで嬉しいなんて

本当にどうかしてる

櫻井「社長、本日の午後からは小山に任せてますのでよろしくお願いいたします」

俺の後に続いて部屋に入ってきた翔ちゃんがタブレットを片手にスケジュールの確認をした

「あ、今日午後から休みだっけ？」

櫻井「こんな時にすみません」

「いや、いいんだけど寧ろ有給休暇ちゃんと消化してね？」(笑)

櫻井「はい」

今日も抜け目のない爽やかな笑顔

だけどスーツがいつもと何となく違うように思えた

「何処か出掛けるの？」

そんなところを見るようになったのは間違いなくAちゃんのせいだ

パタンっとタブレットのカバーを閉じると困ったように眉を下げ笑う翔ちゃん

櫻井「実は父親から進められた縁談がありまして、今日はその方と食事に…土日に休みが取れない方なので」

まぁ…この歳になるとよくある話だ

いくら未婚が当たり前な世の中になっても俺等の親世代からしたら

やっぱり結婚はして当たり前だという考えが残っている

「そうなんだ、縁談ね～…とうとう翔ちゃんも独身貴族卒業？」(笑)

結婚か…

俺には無縁な世界で

遠い未来だと…思ってた

櫻井「いえ、父親の古くからの友人の方からのご紹介で…」

「それなら断れないね」

櫻井「はい」(笑)

ソファーに適当に置いた俺のスーツのジャケットをとるとシワにならないようにとハンガーにかけてくれた

櫻井「お先に失礼いたします」

「ん…お疲れ様」

翔ちゃんが相手でNOだという女はまずいないだろう

翔ちゃんが気に入れば話は早いだろうな

結婚式にまた彼女にスーツをオーダーできるだろうか

そんな見えない未来に浮かれていた俺

ねぇ、翔ちゃん

この後起こりうる事を俺は全く先読み出来ていなかったんだ

小山「社長、"大野様"からお電話ですがお繋ぎいたしますか？」

「お願い」