彼のスーツを脱がす時 2 【NINO】 (ページ16)

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46.追い詰められた純心←2/4 ページ16

「あの…っその…」

どうしよう

なんで

なんで

色んな感情が沸点をこえて自分でもわけがわからない

慌てて彼に背をむけた

「えっと、ウェルカムドリンクないみたいなので電話でききますか」

確実に私に手が届く距離の後ろまできた二宮さん

二宮「…気づかない？」

気づかないわけない

「…あの」

二宮「それとも言うことでもないの？」

言うことも何も

聞きたいのは私

「違っ…」

振り向いた先には

二宮「ん？」

完成したばかり

彼のために

作ったスーツを身にまとい

「スーツ…」

私の隠したかった想いを象徴するネクタイをしていた

「スーツ…着てくれたんですね」

二宮「もう完成してたんだね」

自惚れに聞こえるかもしれないけど

私が想像していたよりも

それは

二宮さんに似合っていた

ロロ・ピアーナの生地

柔らかく

中性的

高貴で

色気があって

スーツを着た男性を初めて綺麗だと思った

「…はい、お渡しするのは土曜日なので」

でも

二宮「着てみてわかるね…違いってやつ」

だからそんな嬉しそうに彼が笑うのが辛くて

「それはよかったです」

だから彼を直視なんて出来なくて

二宮「何で見てくれないの？」

「見てます」

前髪を直すふりをして

違和感のある笑顔を誤魔化す手

二宮「嘘つき」

それすらもふるえて

「見ました、もう帰っていいですか？」

こんな始末の悪い女だって思われたくないのに

二宮「話は終わって…」

堪えきれない涙が頬を流れた

二宮「Aちゃん？」

ポタ

ポタ

って

淡いベージュの絨毯に染みをつくっていく

「見たくない…」

二宮「何で見たくないの？」

今までの彼の優しさも

櫻井さんが言った彼が私を気に入ってくれるということも

二宮「このネクタイ…」

それは私が唯一誇りをもってしてきた仕事だ

二宮「貴女が俺に選んでくれたんでしょ？」

それを私は自分の嫉妬心だけで一瞬にして手離してしまった

二宮「どうしてそれを須永さんにすすめてくれなかったの」

その言葉に二宮さんは私の疚しい気持ちに気づいてるって…

手のひらに短く切った爪ですら食い込むくらいにギュと握りしめた

二宮「Aちゃん？」

諭すような優しい声ですら

「ずるい」

私の気持ちを追い詰める

二宮「何で？」

だから

「…気づいてますよね」

だから

二宮「気づいてるけど明確な答えじゃない」

二宮さん

貴方のせいにしてこの気持ちを言っても

…いいですか