彼のスーツを脱がす時 2 【NINO】 (ページ11)

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41.隠された想い【side NINO】ページ11

小山「社長、大野様からお電話ですがお繋ぎいたしますか？」

Aちゃんから？

はじめての事に動揺する

だけど単純に

素直に

ただ

嬉しいって

「お願い」

メールじゃなくわざわざ会社の番号にかけてきたということは仕事話だろう

それでも内線ボタンを押す指はいつもよりも力が入った

「もしもし」

大野「もしもし、大野テーラーの大野です、いつもお世話になっております」

だけど聞こえた男の声にまるで膨らんだ風船が一気にしぼむような感覚に気持ちが萎える

「…こちらこそ」

大野「急で申し訳ないのですが土曜日にお渡し予定のスーツ、少々不備がございまして、今からお時間いただけないでしょうか？」

急な申し出

しかも、俺の担当であるAちゃんではなくオーナーである大野さん直々かかってきた電話

直感的にAちゃんが相当困るような状況なんじゃないかと思った

「今から？」

大野「はい、とても大事な事なんです」

時計と開いたPCにスケジュールを見ると余裕なんて何処にもない

「わかりました、昼休憩に入るところだったんで今からお伺いします」

大野「ありがとうございます」

電話を切ると翔ちゃんがかけてくれたスーツを手早く羽織部屋を出た

直結する社長秘書室
いつもは翔ちゃんが座るデスクにそんな俺を驚いた目で見る小山がいた

小山「社長お出かけですか？」

スケジュールを確認しようとあわててタブレットを見る小山

「ん、悪いけどちょっと席外すね」

小山「昼食ですか？」

「ちょっと別件での仕事、なるべく早く戻るけど何かあったら電話して」

こんな時にかぎって翔ちゃんが居ないけど

翔ちゃんがいたら行かせてくれたかわからないし小山には悪いけどお前でよかった

小山「はい」

言っても大事な応接や会議は今日はもうない

会社前で直ぐに拾ったタクシーに飛び乗り
店へと向かった

程なくして着いた大野テーラー

店のドアを握る瞬間

あの日の嫌な記憶が頭に過る

「すみません」

振り切るように開けたドア

店の中は相変わらず何処か童話のような空気

彼女がいつもならあのカウンターから走りより出迎えてくれるのに

大野「いらっしゃいませ」

その姿はなく

「…今日はAちゃ…Aさんは？」

代わりに店奥から出てきたオーナーは

その童話の住人のような掴めない独特の空気を身に纏い現れると

その柔らかな笑顔とは裏腹に

大野「Aならお見合いに」

俺にとんでもない刃をつきたてた