彼女のルージュを落とす時１ (ページ19)

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18.リクルート←9/6 ページ19

その日は雪の予報があり

外は昼にも関わらず厚い雲のせいで暗かった

窓際にあるカッティングテーブルで生地に鋏を入れていると

コンコンっと窓をノックする視線に顔をあげた

窓の外にはブラウンのマフラーを口元までグルグルまきにした若い男の子が笑顔にこちらを見ていた

この人…確か前にも

人差し指にマフラーを引き下げ口を出した男の子は

お店の出入口を指差した

従うように鋏をしまってからお店の扉を開ける

「すみません、お待たせいたしました」

お客様ではきっとないだろう

それならばお店に入ってくるはずだし、大学生くらいだろうか若い男の子がうちのような店にはまず来ないからだ

？「これって、まだ募集してますか？」

唐突に男の子がそう言って指差したのは事務スタッフ募集の貼り紙

「あっ、はい、まだしてます」

意外と言っては失礼だけど事務にもテーラーにも無縁そうな、そんな見た目で

？「働きたいんですけど」

冷たい身震いするまで唖然と立っていた事に気づいた

「すみません、寒いですよね、取り敢えず寒いので中にどうぞ」

？「ありがとうございます」

直接来られたのは初めてで

「え…っと、面接！面接の日程希望とかありますか？」

どうにも不馴れな私に対し

？「今じゃ駄目ですか？」

男の子は落ち着いた声に言った

「へ？あ、今ですか？」

いきなり？

でも咄嗟に開いたスケジュール帳は結婚式まで余裕もなく

？「履歴書はあります」

改めて面接ともなればまた時間がなくなる…

「…それじゃ、少し待っててもらっていいですか？」

？「はい」

コートを脱いだ男の子の格好にさらに驚いた

それはリクルートスーツだったから

でも、この面接のためにきたものではないと気づくにはそう時間はかからなかった

「お待たせしました…」

作業をきりのいいところまで終わらせ
応接用のテーブルに紅茶を出すとスッと立ち上がり律儀に頭を下げる男の子

松村「松村、松村北斗です」

リクルートスーツで強引かと思えばしっかりもしていて謎ばかり

「松村さん、えっと履歴書お預かりしてもいいですか？」

丁寧に出されたそれを見てスーツ以上に驚いた

「ありがとうございます」

在学中の大学名が誰もが知っているトップ大学だからだ

資格も私にはよくわからない名前のものばかり

櫻井さんが紹介してくれた方達もだけど

私としては仕事を楽しんでしてくれる人がいいなって

能力が高ければそれを活かせる場所ではないときっと楽しめないし…