04.いつかの私←4/17 ページ5
お店がオープンして
やっと１日の流れが掴めてきた頃だった
閉店時間
今夜はこの後、二宮さんの秘書の小山さんが結婚式の打ち合わせに来る予定
それまでにと出入口の扉にある"open"の札を"close"にかえショーウィンドウのトルソーに着せたスーツをかえることにした
まだ春には遠い
寒さの真っ只中な1月
バレンタインに合わせたコーディネートをセレクトする
チョコレートブラウンのスーツはクラシカルだけど少し愛らしさのあるデザイン
メインはカフスボタンやネクタイ
テーラーメイドの店にはほぼ女性のお客様はいらっしゃらないけど
このシーズンだけは特別だ
大切な誰かのもとへと小物もディスプレイする
夢中になってそんな事をしていると
一人の男の子がこちらをジッと見ているのに気づいた
いつから見られていたんだろうか
私と視線が合った事に気づいた男の子はまあるい仔犬のような瞳をパチパチっと瞬きさせると
ニッコリと笑った
男の子…っと言っても大学生くらいだろうか？
整った顔立ちなのに何処か可愛らしさもあり
そう
今私がトルソーに着せたスーツのような男の子
まだスーツという年齢でもないだろうけど
興味を持って脚を停めてくれた事が何だか嬉しくて
彼の笑顔に私も笑顔になった
その男の子の後ろから小山さんが来た事に気付き
慌ててショーウィンドウから出ると
お店の出入口へ
ほぼ同時に開かれた扉に今夜も小山さんの優しい笑顔が見えた
小山「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
小山「お仕事…大丈夫でしたか？」
そう言ってショーウィンドウに視線を向けた小山さん
「ちょうど終わったところです」
小山「よかった」
「よろしければコートお預かりしますよ」
小山「ありがとうございます」
コートからはムスクの香りがほのかに香り
毎回思うけど、小山さんはスーツのセンスが本当に素敵だ
「珈琲、淹れるのでよかったらかけてお待ちください」
預かったコートをハンガーに丁寧にかけると
小山「バレンタインですね」
小山さんの言葉に視線を追った
ショーウィンドウのディスプレイを何処か研究しているような目で見ている小山さん
「小山さんはバレンタインデーは大変じゃないですか？」
小山「え？」
きょとんとする小山さん
当たり前過ぎるんだろうか
「いえ、女性からたくさんチョコレートもらうだろうなって」(笑)
だけどそれはどうやら逆だったようで
小山「まさか」(笑)
小山さんは困ったように笑った
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作者名：2-38
| 作成日時：2020年4月4日 11時
