玖話 姉弟 ページ10
炭治郎達の姿が見えなくなり、ようやく私が速度を緩めると、大事な弟であるシロと大事な友であるAがため息をついた。
「もう……動揺したのはわかるけど、無言で走り出すなよ……」
まったく、姉ちゃんは!とでも聞こえてきそうな顔でシロが肩をすくめる。
……仕方ないじゃないか。本当に動揺したのだから。
私が少し拗ねてそっぽを向くと、Aが耐えきれないと言うように訊ねてきた。
「……あの。前から度々出てきてますけど、お姉さんは、その……」
言いたいことを察して笑おうとして……無理だった。
笑えなくなったのはいつからだっけ。
泣けなくなったのはいつからだっけ。
叫べなくなったのはいつからだっけ。
途方もなく昔のことのようで、つい一瞬前のような気もする記憶を辿ろうとして諦める。
そんなことをしてなんになる?
事実は変わらない。
「……姉、さんは、鬼に、食い殺されて、死ん、だ」
いつのまにやら癖になっている途切れ途切れの話し方で極簡潔に教える。
昔はこんなでは無かったのに。
自分を出すのが、怖く、恐く。
感情を出すのが、酷く難しく。
なっていた。
察しはついていたのか、Aはすみません。とだけ呟いて黙りこんだ。
何を考えているか、当ててやろうか。
私の中に住まう悪魔が悪戯を思い付いてささやいた。
『可哀想』とか、『優しくしよう』とか、思ってるんだ。どうせ。
私達の素性を知った者は哀れんで、偽善を掲げる。
Aを信頼しきれていないことに気づき、酷く居心地が悪い気分になる。
シロはそれをわかってくれて、私とAの頭をポンと軽く叩いた。
いつの間にか私より大きくなりやがって。
小さな時は私が撫でてやっていた頭が少し手の届かないほど上にあるのを見て、誇らしくなる。
その手は私よりもずっと大きくて私ぐらい固かった。
「さ、炭治郎達も来たみたいだし、そろそろ行こうぜ?」
「…………ん」
「……はい!」
そして、よるはやって来る。
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作者名:まっころん x他1人 | 作成日時:2019年8月31日 11時