弐拾肆話 笑顔 ページ26
くすん、くすんと鼻を鳴らす。
いまだ涙をこぼしている私を慰めるようにしゃらりしゃらりと水色の髪飾りが揺れる。
少しだけ私が落ち着いたことを悟って、炭治郎が口を開いた。
「…………黒百合、シロ。その髪飾りは?」
「雪姉ちゃんのだ。死んじまったけどな」
いやに淡々とした口調でシロが答える。
シロだって泣き出したいのを知っていて。だからどうにかしてあげたくって。
でも私は嗚咽をこぼすことしか出来なかった。
うぐ、と喉に空気が詰まる。
それを合図にまぶたをこじ開けた。
目に届いたのは明け方の、最も暗い時間を過ぎた暁の光。
その光を背に、シロが泣いていた。
ぼろぼろぼろぼろ涙をこぼしていた。
とっても静かに泣いていた。
「シ……ロ……っ」
「ぐっ、ぅ……えっ」
「シロぉ……」
いつまで泣いているのだ。
私はいつまで泣くつもりなのだ。
いい加減にしろ。弟よりも先に泣いてどうするんだ。
私がこの子を守るんじゃなかったのか。
情けない自分を罵りながら震える手を弟に伸ばす。
その手はすがるように強く握られて。
私はそのまま彼を抱き締めた。
しゃくりあげる背中をさする。
「ね、ちゃん」
「うん」
「いる?ほん、とに」
「いるよ。大丈夫、いるから」
触れる背中は家族を食い殺されたあのときとは比べ物にならないくらい広く、そしてたくましく成長していた。
けれど今は幼い頃のように頼りなく震えていて、あの日の決意を私に思い出させる。
この子は、私が守るんだ。
でも、そんな必要ななかったのかもしれない。
必要だったのは、守る手ではなくて、支える手だったのかもしれない。
こういうときに、支えてくれる、仲間だったのかもしれない。
私の手と同じようにシロの背中を優しくさする彼らの気配を感じて思う。
「シロ様ぁ、シロ様ぁ……」
「大丈夫だ、俺達もいるから……二人だけじゃないからな」
かたかたと炭治郎の背負った箱が音を立てる。
禰豆子もシロを慰めているつもりらしい。
思わず笑みがこぼれた。
「…………ふ、ふ」
みんな驚いたように私を見る。
その視線に戸惑って私は目をそらした。
「な、に」
「ねえちゃん、笑っ、た?」
「なにか、悪い、のか」
「そんなことっ、そんなこと、……」
言葉にならないというようにシロはいっそうきつく私を抱きしめた。
ぶわぁ、と吹いた風が頬を撫でた。
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作者名:まっころん x他1人 | 作成日時:2019年8月31日 11時