弐拾壱話 苦戦 ページ23
笑えないことに、調子が良いはずの私の攻撃は当たらない。
というか、全員の攻撃が当たらない。
確実に体をかすっているはずなのに傷がつかないのだ。
「まあまあ落ち着いてよー。別に今は満腹だから喰うつもりはないからさー」
紙のように軽々しい一言ひとことが私の神経を逆撫でする。
調子が良かろうがなんだろうが、私は冷静さを欠いている。
そりゃあ、攻撃も致命傷になるはずがないだろう。
一歩引いた私と入れ替わりにシロが刀を振るった。
「空の呼吸、暁」
やはり当たらない。
私達はどう足掻いてもこの鬼の前で冷静になんてなれない。
このまま朝になるまでこいつが逃げ出さず私達と遊んでくれるとは思えない。
その前に私達を殺して喰らうか、逃げるだろう。
私は疲労に顔を歪めて舌打ちをした。
それを聞き咎めたAがこちらを見た。
「ダメですよ、黒百合様。落ち着きましょう」
「落ち着けるなら落ち着いてる」
苛立ちのままに吐き捨てるとAは泣き虫らしく少し涙目になった。
そんなことを気にする余裕もなく私は鬼を睨み付ける。
奴はやれやれ、と自分の得物を取り出した。
それは弓矢だった。
即座に本能的に身をずらし、刀を顔の横に構えた。
チッ、と摩擦音がして飛んだ矢が刀にあたり、あらぬ方向へ飛んでいった。
ぞわり、と背筋を悪寒が走る。
殺気も何も無しにこんな鋭い矢を放つなんて!
ごくりと唾をのみ、刀を正面に構え直す。
「あーらら、外しちゃった?一発で楽にしてあげようと思ったのに」
相変わらずへらへらとして、飄々とした雰囲気を崩さない鬼に摩擦音のような舌打ちをした。
「ふざけるな。なにが楽に、だ」
「だって、変なとこに刺さったら痛いでしょ?」
首を傾げたあいつから、シャラリと涼しげな、どこかで聞いたことのある音がした。
「…………?」
「黒百合、来るぞ!」
「わかってる!」
炭治郎に怒鳴り返して、私は音のことは頭のすみに追いやった。
それでも奴が動く度にシャラリシャラリと鳴るものだから気になって仕方ない。
どこかで聞いた?
シロも気づいたらしく、眉をひそめている。
「空の呼吸、秋晴」
「雪の呼吸、不香の花」
それでも刀を振るうのはやめない。
どうなっているんだろう。どうすれば良い。
思い出せないまま振るう刃はだんだんと鈍ってきた。
夜明けが、来ないうちに終わらせなければ。
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作者名:まっころん x他1人 | 作成日時:2019年8月31日 11時