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拾参話 深夜 ページ14

先に藤の家紋の家についていた黒百合は先までの苛立ちや羞恥心を消していた。

いや、隠しただけかもしれないけれど。

「……早く、入る」

一言だけ残してさっさと中に入っていく。

あれ?やっぱり不機嫌なんだろうか?

焦げ臭い苛立ちの匂いを感じて、俺は首をかしげる。

「どうしたの?入るよー」
「あっ、はい!スミマセン!」

はっと我にかえって俺は小走りでAさんのあとについて入った。

中では少女と若い女性が俺たちを待ってくれていた。

「ようこそおいでくださいました。鬼狩り様」

こちらです、と少女が案内してくれる。
ついたのは広い広い和室。

一礼して少女は去っていった。

中には先に入っていた黒百合達。

浴衣に着替えていて、すっかりくつろいでいる。

「とりあえず、今日は一日泊まらせてもらうからな!ゆっくり体を休めろよ」
「はーい!」
「わかった!」

シロにAさんと俺が大きな声で返事をすると、伊之助が勝負だなんだと言って叫びだす。
正直いつもの光景だ。

それをどうどうとシロがなだめる。

それはすっかり日常のものとなっていた。

……さすが柱。あれ?本人達が言うには違うのか。
ややこしい。



夕食を終え、今は深夜だ。いつもなら鬼を狩っている時間。

俺は、寝付けずに布団から身を起こす。

縁側をペタペタ歩いていると、黒百合がそこに所在なさげに座っていた。

「黒百合。どうしたんだ?眠れないのか?」

彼女はびくっと体を震わせ、勢いよくうつむく。
悲しみの冷たい雨のような匂いが鼻をついた。

「……何。眠れないだけ。関係ない。あなたは寝なさい」

そっけない声は少しだけかすれていて。
泣いていたのかもしれない。
どうして?そう思ったが追求はしないことにした。
隣に座って笑顔で話しかける。

「俺もそうなんだ!一緒だな!」
「…………そう」

ようやくこちらを向いた黒百合はなんだか酷く頼りなくて。
おろした髪は彼女の顔を飾り付けていた。

「そういえば、何で柱になりたくないんだ?」
「弱いから」

きっぱり言い切って黒百合は微かに嗤った。

「だって、大事な物をいつもいつも」


守れないの。奪われちゃうの。



息だけでそう言って黒百合は立ち上がり、ふらふらとどこかへ行った。

俺は、何も言えなかった。

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作者名:まっころん x他1人 | 作成日時:2019年8月31日 11時

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