涙の跡にキスを 【青】

24 ページ24

外に出ると街は夜の色になっていた。
手を繋ぐカップルや居酒屋へと向かうサラリーマン。

そして、広告が煌びやかに光っていて目につく。

私の右手はいまだに離されていない。


何処へ向かうのか

歩いていると広告に新作と文字がでていた。


「…あ」

「どうした？」

「え、あ、読んだことある作家さんの新作が出るらしくて」

「…？何？」

「白い表紙で『救済』って書かれた謎の多い作者さんの本です」

「……あー、それ以降は名前出してるんだっけ？」

「はい。目黒さんって言って凄い上手な書き方されてるんですよね」

懐かしい

読んだことあるんだよなあの本


「あんた、読書家？」

「いいえ。…ちょうど仕事辞めた時に流行ってた本で
…読んでみようかなと」


ニエベを辞めて辛い時に読んだ本だ。


すごく言葉が暖かくて私は何度も背中を押されたな。


すると、渡辺さんは右手を離し立ち止まって看板の方を見ていた。

「…読んでみようか。『救済』」

「是非。あ、お貸しします」

「買うよ」

「好みもあると思うのでお貸ししますよ？」

「…じゃあ、借りる」


じゃあ、今度持ってこよう。
一応、栞を挟んでいた方がいいかな？

でもな、渡辺さんがどういう読み方するか分からないし


「ねぇ」


声をかけられたので振り向くと渡辺さんは腕組みしながら私の方を見ていた。


呼ばれたが一向に話してこない為不思議に思い自然と首が傾いていた。


「意外に猫タイプとみせかけて犬だよな」


「……はい？」


「警戒心強い奴だと思ったけど

俺、今は凄い許されてるんだなって思った」



街行く人々の足音が聞こえる中
看板の前でそんなことを言われた。


それだけ私が無意識に渡辺さんに気を許してるんだろうな。

「…駄目ですか？」

「だ…いや、駄目じゃない。」

駄目じゃないんだ。


どちらも次の言葉が出ないでまた無言になる。

気まずい


急いで帰らないと明日の仕事遅刻しますよと言って帰る？
でも、なんか逃げたって思うよね。

嫌な気持ちなるよね絶対


考えていると渡辺さんは少しだけ困ったかのように笑って
左手で顔を隠していた。


「駄目じゃないけど、やっぱ駄目」


「どういう意味ですか？」


「仕事の時はやめろ」


成程、仕事の時は弁えろということか。


「仕事中はまじでやめろ。
俺の調子が狂う」


「……以後気をつけます」

「いや、気をつけなくていいから」

「え？」

「あぁ、むずっ」

25→←23

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す