四天宝寺のコイ事情 (ページ10)

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新月ページ10

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恵にはお兄さんがいた。血は繋がってないけど。
とても背の高いお兄さんがいた。
名前は、越知月光。
まぁとにかく、とても背が高い。

恵が電話の向こうで泣いていたのはその月にぃさんが関係していた。

恵が中等部に入学したとき、月にぃさんは氷帝学園を卒業し、高校一年生になった。

恵によると、その瞬間、月にぃさんの姿が消えたという。
電話をしても出なかったという。
一日待ってみたが、家に帰ってこないらしい。

恵は月にぃさんが好きだった。好きと言ってもlikeじゃなくてloveの方。本気で月にぃさんを愛していた。
もちろん、弟たちも。妹二人はまだ小さいから、大きくなってからはもう月にぃさんのことは覚えていないだろう。

恵は我慢してたものがプツンと切れたように、ぐわーっと泣き出した。おもちゃを買ってもらえない子供みたいだった。

あの恵をこんなに泣かせるなんて、月にぃさんはさすがだなと思った。

私は電話ごしに、大丈夫だよとか、またすぐに会えるよとか、そんなことしか言えなかった。
こんなことしか言えない自分がだんだん嫌になってきた。

もうかれこれ20分も話してるのに、まだ恵は泣きじゃくるので、ついに私は怒鳴った。

そんなめそめそしてたら彼氏もできないよ！！

自分でもびっくりするぐらい大きい声が出た。
泣いていた声がピタリと止み、静寂が続いた。

ごめん、と静かな声が向こうから聞こえきた。私もつられてごめん、と小さく言った。

でもAよりは彼氏できやすいと思うけど。

余計な一言がついでに送られてきた。うるさい、と言い返してやった。

少し雑談をして電話を切った。時計を見るともう40分だった。
まだ部屋着になってないし夕ご飯も食べてないことに気付き、急いで着替えて夕ご飯を作った。

空は暗く、月が消えていた。