014:感じた絶望 ページ24
あれから………。
朝になり、目覚めた私は、いきなり目に飛び込んできたとても大きい船に目を奪われた。
ーーー逃げるなら、今が最後。
もう覚悟したはずなのに、そんな往生際が悪い感情が頭を出してくる。
「…」
ーーーー最後の、思い出に。
Aは、すう、と息を吸い込んでから、ゆっくりと後ろを振り返った。
桜の花弁は、少しずつ散り始めていた。風に乗って、花弁と、密かな香りがやってくる。
(きっともう、私は、桜も、こんな青い空も、見ることはない)
ーー…大好きだった、愛していた、この景色。
ずっと、心に刻みつけておこう。
「そこの女。
今日は国どうしの重要な取引がここで行われる。
…一般人なら帰って貰おう。」
「…私、北山Aという者です。
情報は行っていると思うのですが」
「…ああ。
あの、売られる女か。
あそこへ並んでおけ。後一時間ほどで出発だ。」
「…はい。」
そんな会話とも言えない会話をしたのが、一時間ほど前のことだった。
そして今。
(ミク、ガク…)
船に登っていく階段の途中、歩みを止め、振り返るAを、兵隊が疎ましそうに見る。
Aは、自分と、ミク、がくぽ、そして母親だけが、時間が止まっているように感じた。
「A…！！」
「ミク…」
「A殿…っ！！」
「ガク…ッ！！」
「Aーーっ！！」
「お母さん…！！！」
Aも、ミクも、がくぽも、Aの母親も。
こんな喧騒の中だというのに、お互いの声だけは、痛くなるほど鮮明に、耳に届いていた。
「早く行け！！」
「…ッはい」
兵隊の一人に怒鳴られ、Aはもう一度階段を登り始める。
「待って、行かないで！！」
「ごめんねミク。
ーーー…でも、最初で最後の、我が儘だから。」
ﾋﾟｰｰｰｰｯ……
無情にも、鳴り響く催促の笛の音。
船の中に吸い込まれていくAの背中を見て、ミクは成す術もなく、叫んだ。
「いやあああああ！！」
最後に振り返ったAは、自分の出来る限り、口角を上げて、微笑んだ。
「ーーー…さようなら。」
囁くように言われたその言葉は、優しく、残酷に、三人の耳に届いたのだった。
「Aっ……！！」
ミクも、がくぽも、母親も、喉が枯れるまで、Aを呼び、叫び続けた。
だがーーーー…
Aは、帰ってこなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
「逆ハー」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サーシャ - アサミさん» ありがとうございます！！ しばらく更新ができなくてお返事が遅れてしまいましたが、とても感謝しています！続編でもそのイメージを崩さないよう頑張りますので、良ければよろしくお願いします。 (2017年11月6日 21時) (
レス) id: 2ec897ff99 (このIDを非表示/違反報告)
アサミ - その文章力が羨ましいです！ＫＡＩＴＯはかっこいいし、レンくんは可愛いし！続きを楽しみにしています！ (2017年10月23日 23時) (レス) id: 4b0b8ba6fb (このIDを非表示/違反報告)
水無月 - 更新お疲れ様です！もう、ヒロインちゃんに惚れました(*´ω｀*) (2017年8月26日 21時) (レス) id: 3308dd359c (このIDを非表示/違反報告)
サーシャ - めんごねんさん» ありがとうございます！ そんなふうに言って頂けると、書いていてとても楽しくなります！！ これからも、楽しいと思ってもらえる様な文章を書けるように、頑張りますね♪ (2017年7月8日 7時) (レス) id: 2ec897ff99 (このIDを非表示/違反報告)
めんごねん(プロフ) - はじめまして！( *・ω・)ノこの作品を見つけて読み始めたとき、完全に心奪われました！！文章表現がとても好きです！更新、頑張って下さいp(^-^)q！ (2017年7月4日 21時) (レス) id: 568c7ed2fc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サーシャ | 作成日時：2016年9月26日 21時
