【薄桜鬼】何か求められても困りますが (ページ6)

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気味悪がらせてごめんなさいね。
人を食ったりなんてしないから……
良かったらここに泊まっておいきなさいね。

若干の伏し目がちに述べられた言葉に、
私はまだ頭がついて行かなかった。

鬼？傷がすぐ治る？
気味悪がらせる？人を食う？？？

現代じゃどれも聞かない単語ばかりに、
少しの間
私の脳みそは延々と単語を反復し続けた。

「えっと、その……
でも、痛かった、ですよね」

「え？」

「え？だって、いたっ、て
その、仰ってました……よね」

だとしたら、その、
本当に申し訳ありません。
45度がどうだとか、
そんなことは一切頭になかった。

人は傷つく。
それが体であり、心であり、変わらず。
それに気づかないような人間にだけは、
私は、絶対になりたくない。

鬼だとかなんとかは、
とりあえず置いておくことにした。
ただ、前世では感じられなかったような、
無償の愛みたいな物が嬉しくって、
暖かな笑顔が好ましくって。
そんな優しさに、
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「……ふふふ、ふふふふふ。
あなたは優しい人ねぇ……！あの人にそっくり」

おばあさんは目じりに涙を貯めて、
感慨深そうにそう言った。

「あの人の生まれ変わりかと言うのは
少し無理があるけれど、
本当にあの言葉を
もう一度聞けるなんて思わなかった……！！」

「……いえ、そう言われると……
その、こちらとしても反応に困ります……」

「あらあらいいのよ！
怪我なんてね！すぐ治るんだから」

なんてそんなこと言ったらね！
ダメだ！身体は大事にしてくれ！
なんて言ってねぇ！もう！！！

なぜだかとても楽しそうでいらっしゃる。

彼女の名前はミツコさんというらしい。
鬼、というのは種族のことで、
人間より身体能力に優れ、
治癒力も段違いに高い。
大抵の怪我は、
すぐに治癒してしまうとの事だった。

そんな彼女は勿論鬼と鬼の間に生まれたらしい。
しかし自分は人間の男と結婚したという。
鬼の数は人間によって減らされ続けていて、
そんな鬼も別に珍しくはないと彼女は語った。

なにか例を挙げるのは
どうにも失礼だと思うので
これと言ってあげる気はないが、
長い人間の歴史の中でも、
強さは数に勝ちえないなんて話はよく聞くことだ。
彼女達もそれと同じように、
その高い戦闘能力や
労働力としての力に目をつけられ、
逆らえば数の暴力で、と彼女は語る。