〇第29話 ページ30
「おい、そこに座れよ」
灰谷蘭は壁によしかかって言う。
正直、ボコられる覚悟はしてきたけど、その気は無いようだ。
「うっす。」
「姫･･････Aは笑ってるか？」
「え？･･･はい。笑えてると思います」
「そうか」
安心したようにふわっと笑った。
この男、こんな風に笑うのか･･･。
Aを大事にしてるんだな
「姫はどこまでお前に話した？」
「･･･正直、まだ付き合ったばかりで何も」
「ふーん。」
と気の抜けた返事をしたかと思うと真剣な顔で俺を見る。
「あいつ、小さい時に誘拐未遂にあってんだよ」
「･･････は」
「両親が共働きでよ、遅い時間まで帰ってこねぇから･･･。夕方に買い物した帰り道に。」
拳から血が出るんじゃないかというほど、固く固く握りしめて、その顔は憎悪に満ちていた
「たまたま警察が通りかかったから大丈夫だったものの、その後の姫は見知らぬ人を怖がるようになった。小学校も行けないほどに。でもあの両親は仕事優先だった」
「そいつらにAは何されたんすか」
「大勢に囲まれて、腕だけじゃねえ、髪や色々な所を引っ張られたり、押さえつけられたり。小学生の女の子には大きい奴らに囲まれただけで恐怖だっただろうよ。警察に保護されて俺らの顔を見た瞬間に抱きついて泣いて気絶した」
想像しただけでも怒りがわいてくる。
その頃俺は出会ってなかったからどうしようもないのだが、俺らだったら確実にみんなで奴らを潰しに行くだろう。
「その命令をしたのが当時都内最大の暴走族、京極の総長と副総長だった。」
「もしかして、それが･･･」
「六本木灰京戦争」
灰谷兄弟が少年院に入るきっかけになった事件だ。
その裏にそんなことがあったとは。
「俺らが喧嘩に行く前に姫に俺らと同じ格好してれば近くにいる感じするだろ？って教えた。まぁ、俺らに似て整ってるからよ、少しでも地味めにしておけば変な虫どももつかねぇからよ」
だからいつも出かける時は三つ編みとメガネなのか
というか、あれ伊達だったのか･･･
「三ツ谷」
「･･･うっす」
「俺が出す条件は一つだけだ」
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作者名：sino | 作成日時：2021年7月20日 15時
