彼女Editor(２) ページ7
実際には数秒、いや、もしかしたら一秒も合わせていなかったかもしれない。けれど俄然、僕の中にはむくむくと好奇心が湧いていた。
―――Aはどうして泣いているのだろう、って。
近寄って僕が声をかけると、Aは慌てたように涙を拭って、取り繕ったように笑った。
「大丈夫？辛いことがあったのなら僕に相談してみてよ。少しぐらいは気が楽になるよ？」
―――そう言った僕に、彼女は少し逡巡しつつも話し出した。
「…本当に、つまらない話なんだけどね…―――。」
―――曰く、事の顛末はこうだった。
一見行動力があって意志の強そうな彼女は、どうやら「そうあらねばならない」という妄信に駆られていたらしく、その高い理想と本来の自分との「埋められない差」に苦しんでいたらしい。
―――「泣き虫で流されやすく、他人からの評価に一喜一憂する自分が嫌いで、それを認めたくないから真逆に振舞って他人も自分自身も騙し続けていこうとした。」
―――「仲間と楽しそうに過ごしているのも、自分が暗い顔を見せると仲間が心配してしまうから無理やり笑みを貼り付けていただけ」
嗚咽と、時たま苦しそうに咳をしながらAは僕にそんなことを言った。
何度も何度も涙を必死にこらえて、もはや笑顔ともとれないような崩れた顔をして話す彼女に、僕はどうしようもない加護欲と加虐心が湧いた。
―――この強そうで弱い彼女をどろどろに甘やかして、僕の前でだけその姿を曝け出させてみたい。
この気持ちが恋なのかは知らないけれど、僕はその時からAのことを好意的に思い始めたのだった。
―――それから半年。
僕はAを恋人にした。これもまた「どろどろに甘やかす」ためには必要なことだった。
とはいえ彼女を落とすのは結構時間が掛かってしまった。だって彼女には外面が通用しなかったのだ。
急に優しくしだした僕に、Aは初め怯えていた。
自分で言うのも変だけど、僕はそれなり顔がいいし頭だって悪くはない。だから大抵の女の子なら外面で釣られることも多いんだけど、彼女はそうではなかった。
自分に自信がないせいか、僕みたいな人間が落そうとしてくることに怪しさしか感じなかったという。
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作者名：Entero-spiro | 作成日時：2019年2月13日 14時
