それでもいいんだよ(4) ページ4
一日半程経って。雲一つない青空の昼の中、俺は病院で医者から説明を受けていた。
幸いなことに彼女の命に別状はなく、頭部以外の怪我の痕跡は見当たらなかったという。
胸をなでおろした俺に、医者は、しかしと言って続けた。
―――…幸い運動機能などに弊害はないようですが、しかし頭部への強い刺激によりこれまでの記憶が失われている可能性が…―――
―――目の前が真っ暗になった。
…覚束ない足取りでAのいる病室へと向かう。その数分間の間、今日の朝警察に伝えられた話のことを思い返していた。
曰く、監視カメラの映像によると、彼女が襲われたのは七時を少し回った頃だという。犯人は未だに逃走中で、警察は走り去った車の特定を急いでいるらしい。
―――そう、つまりは、あの日。己が約束通りの時間に帰ってさえいれば、Aはこんな目に合わなくて済んだのかもしれない。
急の案件なんか無視して、Aを優先してさえいれば、それは勿論IFでしかないがそれでも、Aは。
理性的な部分が、それはお前のせいではないと語りかけてくる。たまたま運が悪かっただけだ、と囁いてくる。
しかし別のどこかでは、お前のせいだと。お前が仕事なんて優先してるから彼女はこんな目にあったのだという声が俺を容赦なく詰った。
どちらであっても、大切な時に彼女を守れなかった俺など恋人として失格だと思わざるをえない。
失意の中、俺は彼女の病室のドアを開けた。
そして俺は―――Aが記憶喪失になっている現実を目にした。
「こんにちは、えっと、スマイルさん…ですよね?」
―――頭に巻かれた包帯こそ痛々しいが、彼女は朗らかな笑顔をこちらに向ける。
罪悪感と、やはり彼女が己を覚えていないことに、胸が痛んだ。そうだよ、と返すと、彼女の顔が心配そうに歪む。
「顔色が真っ青ですよ!た、体調が悪いんじゃないですか!?あっ、ほら、椅子!そこの椅子に座ってください!」
―――彼女はそう言ってベッドの隣の椅子を指差した。
…何故だろうか、胸の痛みが薄れてゆく。
「えと、何をお話したらいいんでしょうかええと。あ、そうです、助けていただきありがとうございます!お医者さんが、あともうちょっと発見が遅れていたら両腕とか動かなくなってたかもしれないって言ってて、他にも…―――」
―――ああ、そうか。
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作者名:Entero-spiro | 作成日時:2019年2月13日 14時