ゲーマーは貴人の妹*三章【双星の陰陽師】 (ページ3)

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七拾参ページ3

ろくろが武舞台の方へ走り出したとき、聞こえるはずのないAの声が会場に響いた。

「熾伝解放、モード獣化
極寒砕氷純臨之演(ｺﾞｯｶﾝｻｲﾋｮｳｼﾞｭﾝﾘﾝﾉｴﾝ)」

一瞬だった。

一瞬で聳え立っていた氷山が粉々に砕け散り、武舞台に降り注ぐ。

氷に閉じ込められていた、Aを探すが姿が見えない。

その代わりに、大きな白銀に輝く一体の獣が常盤を背に乗せ神々しく佇んでいた。

その獣は、大きく遠吠えを上げると残っていた氷の大きな欠片や、Aの呪術で冷え切っていた会場の冷気を掻き消した。

その獣が吐く息は、冷たいのか白く、足元の地面は小さな音を立てながら凍り付いている。

突然現れた、白銀の獣は観客を魅了した。

美しく、そして勇ましい。

神の如く神々しい姿に目を離せなくなる。

冷たい印象を抱かせる姿をしているが、何処か暖かいそんな雰囲気の獣。

「熾伝解除」

獣の口が開くとAの声が聞こえ、姿がゆらりと揺れる。

大きな巨体が霧散するように消えていくとそこにいたのは気絶した常盤を抱えたAが立っていた。

『え、？あ、あの巨大な獣の正体はA様だったようだ！！！！と、常盤様がダウンしているので女子の部第五試合勝者は焔魔堂家傘下鸕宮A様だぁぁぁぁ！！！！！！！！！！！！！！』

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ！！！！！！！！！！

大きな歓声に包みこまれ、両者に大きな拍手が送られる。

常盤の方も冷え切ってはいるが死には至っていない。

大きな傷を負った両者だが皆が想像した災厄の結末には至らなかった。

救護班が来て常盤を運んでいくのをAは見つめた。

・

「常盤っ！常盤っ！！意識があるなら返事をしろっっっ！！」

薄く朦朧とする意志の中、兄の悲痛な叫び声がする。

冷たく冷え切った身体で、右の掌が酷く温かい。

嗚呼、兄ちゃんだ。

見てくれたかな、おら、頑張っただよ。

兄ちゃんに負けないくらい。頑張っただよ。

だからそげん泣かんでよ、おらを褒めてくんろ。

「本当にお前は大馬鹿だ。」

え、なんで。なんで、おら頑張っただよ？

「なぜ、こんな無茶をした。俺はこんなこと望んでないのに。俺は、お前が大切だから、唯一無二のなくしたくない家族だから、だから、お前を庇護してきた。なのに、お前ときたら無茶ばっかりして、自分のことなんか後回しで、とんだ大馬鹿だ。」

ぽたりと冷たい常盤の手に落ちる涙は暖かかった。