揺蕩う

もう苦しい ページ11

「…和田、呼ぼうか？」


「んーん、大丈夫だよ。せっかくライブの打ち上げだもん、たのしく飲もう！ごめんね」


「俺は大丈夫、だけどさ…」




いつもは無表情で他人なんか興味なさそうな彼の顔が、思いっきり心配ですみたいに歪むからなんだか申し訳なくなる。


少しだけ気まずくて、視線を逸らした先。
柔らかく優しく笑う黎くんと、その横にぴったりくっつくあの子の姿。



仲睦まじく顔を寄せて楽しそうに会話する姿は、



やっぱり痛いなぁ。



「あぁ、あいつら戻ったんだよね。Aは知らないよね？あいつ俺らの高校時代の後輩でさ。ずっと矢花と付き合ってたんだけど、進路とか音楽のこととか、色々揉めてさ…しばらく離れてたみたい」


「そ、なんだ…」


「昔から仲良くてさ、矢花もアイツのことすげぇ大事にしてたから。」



別れてる間の矢花なんか死人みたいな顔してばっかで、ほんと見てらんなかったし、よかったよ、戻ってくれて。

そういってふたりを眺める今野くんは、とっても優しい顔をした。





きっとその離れていた期間ってやつがわたしと居た時間だったわけで、
そんなこと全然気付かなかったな。


あの子の代わりにすらなれなかった癖に、舞い上がっていたなんてほんとに馬鹿みたいだ。




今野くんの隣、思わず出そうになった涙に慌てて手元のジョッキを煽った。


苦くて熱いアルコールに、喉がヒリヒリとして、


ああ、もう苦しい。

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