∞Housing complex∞ (ページ9)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:3,988 hit

♯9 ページ9

錦戸たちがカラオケでワイワイ騒いでいる一方、川崎春華は覚悟を決め、鬼を目の前にして、口を開いた。

「あの、A？そろそろ人間に戻っていただいてよろしいでしょうか？」

「それ、どういう意味で言ってるん」

「いや、その…」

春華はたじろいだ。上手くカモフラージュして、要望を言ったつもりだったのに。
本当に言いたいことはなにかと尋ねられては、そんな努力も無意味である。

錦戸くんに腹が立つのは仕方ないけれど鬼になられるとこっちが大変だからやめて、なんて正直に言ったら、ますます鬼化するに決まっている。
かといって、嘘をつけばAのドギツい目つきは直らない。

春華は今になって、自分の国語力のなさを思い知らされた気がした。

「ごめん。ホンマは分かってるんよ」

春華が返事に戸惑っている間に、なんということだ。
鬼のほうから歩み寄ってきた。

「錦戸に過剰に拒絶反応出し過ぎよな、私。そのくせして」

鬼は制服の胸ポケットから、カチャカチャと音を鳴らし、ひとつのストラップを取り出した。

「こんなもん、大切に持ち歩いちゃってるし、もう自分が意味わからん」

Aは頭をかきむしるという、JCらしくない行動を起こし、

「ああー、もう嫌や、自己嫌悪」

ストラップを握り潰すように手にとった。
そして拳で自分の脚を叩く。

「しかも、なんでよりによって隣人やねん…」

春華は鬼になったAの相手をするのは疲れるけれど、自暴自棄なAの姿を見るのはもっと疲れると悟った。