∞Housing complex∞ (ページ12)

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♯12 ページ12

そんな丸山の心の闇など知らない錦戸は、帰る間際まで、バラードを熱唱していた。

Aへの届かぬ想い(正確に言うと届いても跳ね返される想い)を声に乗せて。

「亮ちゃん、もう帰んでー」

「いい加減終わろ？」

そう促されても、なかなかマイクを手放せない。

なんだか、歌い続けていたら、いつの日にか、Aが笑顔で応えてくれる気がして。

「好っきゃねーん！」

大音量でそう叫んでみても、Aの返事が聞こえることはない。
ただただ、あとの三人の迷惑そうな顔がこちらを向くだけである。

むなしくなった錦戸は、スイッチをオフにして、マイクを静かに置いた。

「ごめんなぁ、亮。僕おばあちゃん家寄ってくわぁ」

「ホンマにごめん！俺らも直で塾行くから……」

「ひとりで寂しいよなあ、申し訳ない」

錦戸は、本来であれば家の玄関扉までひとりになることがないはずの帰り道を、ひとりで歩くことになった。

家まで30分間。
黙々と足を進める。いや、とぼとぼと肩を落として歩く。
孤独の極みだ。

友達と話に熱中することもないから、つい余計なことを考えてしまう。

例えば、Aって名前で呼ぶことができていた頃の自分と森山さんを思い出して、森山さんとしか呼べなくなった今と比較してみたり。

よく遊んだなあ、よく話したなあ。
家隣やから、どっちかが休めば、どっちかが連絡帳届けたなあ。

ギター片手にAの部屋にお邪魔して、セッションとか言うて歌ったなあ。

もう、そんなこともできひんの、かなあ。

「わっ、痛っ」

錦戸は腕を組み、うつむいて考えこみながら歩いていたせいで、電柱に頭をぶつけた。