︎♥︎ 9 ページ9
阿部さんとは何度かデートを重ねた。
私が行きたいところも
私が知らないところも
どこに行っても楽しくて、時間はあっという間に過ぎる。
この日もやっぱり車で送ってくれた阿部さんに
家に入る前に少しお話したいな、と可愛くお願いされた。
外は雨が降っていた。
聞こえづらいはずなのに、車の音に気づいたのか
傘を持った佐久間が玄関に立っている。
私が出ようとしたらきっと走ってやってくるのだろう。
自分の傘もささないで。
｢なんのお話をしましょう？｣
大抵のことは知れたつもりだった。
微笑んでる彼の口が開く。
『結婚式挙げる前に発表したいの。俺たちのこと』
｢…と言いますと？｣
『お披露目パーティー、なんてどうかな。
もちろんすぐにじゃないし嫌なら俺1人でもいいんだけど、
父がやれってうるさくてさ…』
私はこの人と結婚するんだ、という実感がなかった。
たまに遊ぶ男の人という認識だったことを
この台詞を聞いて思い知る。
私が生涯隣にいる人なのだ。阿部さんは。
『…やっぱり嫌かな？』
眉を下げて聞いてくるその表情は、狡い。
｢いえ…その、いきなりなのであまり分からなくて…
少し考えてもいいですか｣
『もちろん。強制じゃないから、嫌なら大丈夫だからね』
私たちが婚約相手だということを知る人間が増える。
なんとなく。
ただ本当に漠然と、
逃れられなくなる。
そんな気がした。
｢今日も、ありがとうございました。
お気をつけてお帰りください。おやすみなさい｣
『うん。ねぇ、』
｢はい、っ？｣
頬に落ちた唇は
可愛らしいリップ音を立てて離れた。
それから、どこかの国の姫かのように右手を取られて。
視線を合わせながら、優しく手の甲にも唇が落ちる。
『おやすみ、また連絡するね』
予想もしていなかった行動に脳が固まってしまう。
癖づいた動作を勝手に体がして、
後ろからバシャバシャと雨音と共に駆け寄ってくる従者。
『…おかえりなさいませ』
｢あぁ…ただいま、さくま｣
『……お嬢様を送っていただきありがとうございました。
お気をつけて』
『うん。またね、佐久間さん』
口づけられた場所だけが、熱を持ったように痺れていた。
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カジャ(プロフ) - なべさん» 大変嬉しいコメントありがとうございます。もう少しお付き合いください。 (3月13日 18時) (
レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
なべ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。 前作の縁‐YUAN‐から読ませていただいてます。 とても素敵なお話だな、と思いながら…今後も更新楽しみにしています。 (3月13日 3時) (レス) @page26 id: d14fd2bd0e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カジャ
| 作成日時：2024年3月2日 18時
