♥︎ 24 ページ24
挨拶まであと30分を切った。
ビュッフェスタイルで用意された軽食を摘んだり
抜けたアルコールをまた入れたり
色々して考えないようにしていても
やっぱり落ち着けなくて。
申し訳ないけど亮平さんも安心材料にはならなくて
お手洗いに行きますと一旦会場を出た。
トイレに行くふりをして控え室に戻ったら
誰もいないはずのその場所に電気がついていた。
誰か入って消し忘れたのだろうかと足を踏み入れると。
ぐい、と誰かに腕を引かれた。
途端に電気が消える。
｢なに、？だれ、離して！｣
じたばた手を動かす私の耳元に声が届いた。
『お嬢様。俺です』
｢えっ…佐久間？何で？来ないんじゃなかったの｣
忘れ物とかしたっけ。
佐久間がわざわざここに駆けつける理由が思い当たらない。
暗い部屋の中、隙間から入る一筋の光だけが
佐久間の一部を照らした。
光は反射することなくすうっと佐久間の瞳に吸い込まれていく。
『俺と、一緒に生きてくれませんか』
空いた背中に、肩に、鳥肌が立つ。
｢どういう意味？｣
『そのままですよ。あいつじゃなくて、俺を選んで』
薬指が撫でられた。
私の人生を定める証のついた、薬指。
佐久間を選ぶということは
この証を捨てるということ。
否、全てだ。
佐久間は…目黒くんがぶつかってきた分厚い壁を
ぶち壊そうとしている。
｢でも、そんなことしたら｣
『大丈夫。俺がいるから』
今までの全てを捨てなければならない。
そうまでする必要があるのか。
でも、このままだったら。
『A』
一瞬自分のことだと分からなかった。
数秒遅れて顔を上げた瞬間、重なった唇。
初めての感触に体温が上がる。
『俺を信じて』
まるでどこかのおとぎ話に出てくる王子みたいだった。
この手を取れば、違う世界に行けるだろうか。
｢…分かった｣
薬指から証を抜きとる。
肩にかかったジャケットを佐久間が払い落として
暗闇をごそごそ探る。
だんだん目が慣れてきて、彼が手に取ったものが見えた。
膝上の丈のミニドレス。
入り込んだ光で見えた色は、ピンク。
『着て、これ。バレないために』
大嫌いなピンク。
佐久間のためなら。
そして、壁をぶち壊すためなら。
｢後ろ、向いてて｣
緑を脱いだ。
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カジャ(プロフ) - なべさん» 大変嬉しいコメントありがとうございます。もう少しお付き合いください。 (3月13日 18時) (
レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
なべ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。 前作の縁‐YUAN‐から読ませていただいてます。 とても素敵なお話だな、と思いながら…今後も更新楽しみにしています。 (3月13日 3時) (レス) @page26 id: d14fd2bd0e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カジャ
| 作成日時：2024年3月2日 18時
