︎♥︎ 20 ページ20
パーティー当日の朝。
今日は学校を昼で早退してから
色々準備に向かう。
今日、私と阿部さんが婚約することが大々的に知られる。
レールをまた1歩進むことになるんだ。
家を出る時間までにやることが終わり
部屋でだらだらと寛いでいると
遠慮がちに鳴ったノック。
佐久間だ、と経験がものをいう。
あの日からずっと様子のおかしい佐久間は
また私から距離を取って、最低限でしか関わってこなかった。
まだ学校に行くには少し早いけど。
もう今日は出るのかなと思って
やっぱり何も入っていない薄いカバンを肩にかけて扉を開けた。
｢もう出る？｣
『…お話したいことがあります』
扉の前に立つ私を押し退けるようにして
部屋へ入り込んだ。
珍しい。強引に入るなど、今まで1度もなかった。
相変わらず光の入っていない瞳で私を見つめ
扉が閉まったと同時に唇が開く。
『お嬢様は、本当にこのままでいいですか』
(( 佐久間。貴方本当にこのままでいいの？ ))
いつしか私が投げた質問だった。
それがどういう意味か、聞かなくても分かる。
あの日初めて私の前で嘆いた。
執事の佐久間ではなく、いち人間の佐久間大介としての
感情を見た。
私が聞きたかったのはあなたの気持ちだった。
結婚しないでって言われて、嬉しかったの。
だけど私は。
｢…しょうがないよ。もう決まったんだから｣
佐久間が求めているものとズレていると知りながら
この答えを出す。
薬指にハマるオニキスの指輪。
これは証であり、呪いだ。
『もし、決まっていなかったとしたら。
もし結婚しなくてもよい未来があったとしたなら、
お嬢様は俺をそばに置いてくれますか』
｢…当たり前でしょ。佐久間以上に上手く
私を扱える執事はいないんだから｣
そうですか、と読めない表情で呟いた。
何が言いたいのかさっぱり分からない。
そのまま車に乗り込んで
学校へ向かった。
2人の間を抜けていく音楽。
何もかもが違う異質な空気を感じながら
到着した校門前で車を降りた。
『行ってらっしゃいませ』
｢うん、またお昼に｣
ひらひら手を振って佐久間と別れる。
『…大丈夫』
落ちた言葉は、次々と通りゆくローファーに
踏みつけられて聞こえなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 222人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カジャ(プロフ) - なべさん» 大変嬉しいコメントありがとうございます。もう少しお付き合いください。 (3月13日 18時) (
レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
なべ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。 前作の縁‐YUAN‐から読ませていただいてます。 とても素敵なお話だな、と思いながら…今後も更新楽しみにしています。 (3月13日 3時) (レス) @page26 id: d14fd2bd0e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カジャ
| 作成日時：2024年3月2日 18時
