♥︎ 19 ページ19
さすがと言うべきか、佐久間が気づくのは早かった。
夜ご飯を食べて帰ってきた私を
いつも通り出迎えた彼は
私の指を見て一瞬動きを止めた。
『…その指輪』
｢阿部さんがくれたの。
分かってらっしゃるよね、黒の宝石だなんて｣
『結婚、指輪ですよね』
｢そうだと思う。薬指にはめてくれたし｣
カバンを渡したら
珍しく手を滑らせて落とした佐久間。
慌てて謝って持ち上げるけどまた落とす。
スリッパに躓くし、私の部屋と隣の部屋を間違えて開けた。
｢大丈夫？体調悪いの？｣
『いえ。何でもありません、すみません』
まだ歯磨きもお風呂も済ませていないのに
おやすみなさいと部屋の扉を閉めた。
…心当たりが、ないことはない。
指輪を見た瞬間佐久間の目から光が消えた。
きっとこの指輪のせい。
でももう戻れない。
やっぱり要りません、結婚できませんなんて。
佐久間の言う通りだった。
私にも、はいと答える以外の選択肢などなかった。
誰と一生を添い遂げるのか
誰を私のそばに置くのか
どこの幼稚園に行き、どこの学校に行き、何を学び何を覚えるか。
これまでの人生の分岐点を自身で選んだことは無い。
高校3年生になったら皆受け取る進路希望調査票も
私のところには回らなかった。
阿部さんと結婚したその先にもきっと
もう私の歩くべきレールは用意されている。
良き妻を装って、良き母も装うことになるかも。
…本当に、それでいいんだろうか。
親の用意した道だけを
親と同じように進まなければならないなら
私は私である必要が、あるんだろうか。
私が生まれた意味を
他に見い出すことは、罪だろうか。
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カジャ(プロフ) - なべさん» 大変嬉しいコメントありがとうございます。もう少しお付き合いください。 (3月13日 18時) (
レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
なべ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。 前作の縁‐YUAN‐から読ませていただいてます。 とても素敵なお話だな、と思いながら…今後も更新楽しみにしています。 (3月13日 3時) (レス) @page26 id: d14fd2bd0e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カジャ
| 作成日時：2024年3月2日 18時
