︎♥︎ 12 ページ12
微笑んだ佐久間は
犬や猫でも見るかのような愛しそうな顔だった。
重なった手とは逆の手が私の腰を引き寄せる。
あまりに近い距離に、思わず片手を佐久間の胸に当てた。
うるさいぐらいに心臓が響いていた。
『なんでそんなこというんです？人がせっかく我慢してるのに』
佐久間の声が甘かった。
耳に残るその囁きに、また心臓が跳ね上がる。
｢さくま、近い｣
『もっと近づきたいところを頑張って止めてるんです。
ねぇお嬢様』
｢離れなさい｣
『あいつに、ちゅーされてたね』
聞いてない。
離れない。
ほんのり灯ったままの間接照明が彼の半分だけを映し出す。
『俺に見せつけてた。牽制するみたいに。
すげーむかついたけど俺態度に出さなかったよ。偉くない？』
知らない。
今日の佐久間、見たことない姿ばっかり。
否。阿部さんと知り合ってから。
いつもの元気な佐久間は見当たらず
なんて返せばいいのか分からなくて黙ってた。
『ふふ、困ってる笑』
｢…困ってない｣
『可愛いお嬢様を知ってんのは俺だけでいーのに。
あいつのとこ行くなんて考えただけで気が狂いそ』
さっきまでのしおらしい姿もどこにもない。
どれが本当の佐久間？
『俺もしていい？』
｢何をか分からないけどダメ。離れて｣
『…執事だから？』
｢そうだよ｣
『なら執事辞める』
役員になるのは嫌なんじゃないのか。
執事を辞めるなら私たちの関わりは本当にもう一切、
『まだ、だけどね』
タキシードのジャケットのボタンだけを外した。
この距離のまま意味深に笑う佐久間の意図は読めない。
数秒見つめられた後、足音が聞こえた。
半ば突き飛ばすようにして離れると同時に扉がノックされる。
顔を覗かせたのはメイドの1人だった。
｢ 佐久間さん。またお嬢様のお部屋ですか？ ｣
ちらりと見た佐久間の顔はさっと変わっていて
いつもの元気な明るい佐久間だった。
…こわ、
｢私が呼んだ。もう用は済んだから下がってもらう｣
｢ そうですか。お嬢様も、いくら佐久間とは言え異性を ｣
｢何？執事が主の呼び掛けに応じるのは普通でしょ。
それとも何か違うことを想像してるの？｣
佐久間の背中を押した。
さりげなくボタンを留め直し、私に向かって一礼する。
『おやすみなさいませ』
｢おやすみ｣
1人になった瞬間、ベッドに倒れ込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 222人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
カジャ(プロフ) - なべさん» 大変嬉しいコメントありがとうございます。もう少しお付き合いください。 (3月13日 18時) (
レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
なべ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。 前作の縁‐YUAN‐から読ませていただいてます。 とても素敵なお話だな、と思いながら…今後も更新楽しみにしています。 (3月13日 3時) (レス) @page26 id: d14fd2bd0e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カジャ
| 作成日時：2024年3月2日 18時
