一番右の人

身代わり 6 ページ14

Aは、長く付き合っている彼氏がいた。
Aが大学に入学してから始めたバイト先で出会った人らしいから…3年、とか付き合ってたんだと思う。
最初こそすごく仲が良くて、幸せそうで…

俺は、ほんのちょっと…淋しかったけど
そんなAの笑顔が好きだった。





でも、その彼氏は、暴力を振るう人だった。時間が経つにつれ、Aを殴るようになったらしい。俺は、どうしたら良いかわからなかった。恋愛経験なんてないし、人間としてもまだまだ未熟。拓実たちをはじめとする、友人にアドバイスをもらうのも悪くなかったのかもしれない、でも…なんかそういう話って、広めて欲しくないのかなって。

Aはきっと俺を信頼して、言い難い彼氏との問題を打ち明けてくれた。だったらその気持ちを裏切りたくなかった。本当に辛かった。助けたい。
ボロボロに傷ついているAを。でも、俺はただの友達。彼氏に歯向かう権利なんてない。
それに、影で自分のことを男に相談してるなんてバレたら何されたかわかったもんじゃないし。

結局Aは優しいから、怒らせる自分が悪い、って耐え続けた。いつか彼氏が優しい彼氏に戻ってくれることを信じて。


それなのに…

Aは、捨てられてしまった。
ちょうど今から一ヶ月程前のこと。今日もずっと元彼の愚痴や、未練や…やっぱり忘れられない、みたいなことを話していた。








他に好きな女ができた

って言われたって。
Aはこうも言われたらしい。


「お前ってなんでも言うこと聞いてつまんねぇ。モノかよ」


って。あんまりじゃないか。
暴力を振るわれるのが怖くて、何を言えなかっただけなのに。何より、殴られても何されても結局好きだから、逆らわないでいただけなのに。





俺は、Aから目が離せなくて、歌詞を追うことも忘れてあやふやな声で歌う。
もう、演奏停止を押そうか。俺が、Aから目を離そうとした瞬間


「…う」


つ、とAの頬を涙が伝った。


「…ぅ、っ……ごめ、ばしく……」

「……」


泣かないで、とか、そんな男のこと早く忘れちゃいなよ、とか、




…俺に、すれば良いのに とか……………



色々な言葉が浮かんでは、どれも不適切な気がしてかき消す。何か言え、俺。もう、意味をなさなくなったマイクを握りしめ、空いた方の手を膝の上で握って。


「ごめん、ごめんね…」


子どものようにしゃくりあげながら、Aは細い肩を震わせる。俺は…

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